第11話 ステークアウト (張り込む者たち)
犯罪の多くは能力者が絡んでいた。
そのため、特務警察特殊部隊の出動が自然と多かった。
そういった状況では一般警察は不要と思われがちだが実はそうでも無かった。
特務警察特殊部隊員は能力者であるが故、自分の能力に頼りすぎる所がある。
犯罪者は逆にそれを利用し、判断を迷わせるトラップを仕掛ける事があるのだ。
しかし一般警察署員はそれが無いため、これまで同様地道な捜査から判断する。
両組織が合同捜査をする事で判断し、捜査の方向性、犯人像、犯罪の本質を見誤る事無く進めてきた。
仲が悪そうな関係に思える両組織が実はお互いを尊敬し、尊重し合って活動している。
職業柄犯罪を許さないと言う信念がそれを実現させているのだろう。
最も全ての署員がそうでは無い事は事実としてあるのだが。
本部を同一の庁舎にする案も出てはいたが、別である利点も多く現状に至っている。
お互いの捜査結果からの思考の混同を防ぐ為には、距離を取った方が良い局面が多いのだ。
しかし中にはタッグを組み、多くの結果を出す”チーム”もあった。
一般警察署員の山口、丹羽と特務警察の丸山、浅野がその最たるチームだろう。
4人はいわゆる組織犯罪に対処する部署に席を置いている。
犯罪者が組織化され多くの犯罪に能力者が絡み、その能力者も組織の一員である現状、出動件数の最も多い部署だ。
能力者の犯罪組織が一般人犯罪組織を取り込み新しい犯罪組織に変化していた。
組織犯罪の多様化は、自然と対抗する警察組織のあり方も変えていった。
現場で活動している者の反応は上層部より俊敏であった。
山口、丹羽、丸山、浅野チームはその先駆けだった。
彼等の共通の疑問は、追っていた一組織が突然消滅する事がある事だった。
文字通り消滅するのだ。
ある時は、倉庫毎翌朝には消滅していた。
捜査の結果拠点と思われる倉庫を特定し、踏み込むその早朝そこは平地になっていたのだ。
犯罪に絡んだ人物の消息も消えるのだった。
その時点で上からの操作終了命令が出る。
事後調査も禁止される。
それも大きな”ヤマ”の時に限っておきる。
そんな事が何回かあったのだ。
違和感を覚えるのは当然だろう。
一度能力者による仕業を考え、鑑識に残存思念の調査を依頼したがその痕跡は無いとの結果だった。
しかし山口、丹羽は痕跡が無い事こそ能力者の関与を疑念していた。
すぐに次の捜査も始まるため、いつまでも固執していられない現状でもあった。
忙しさの中で不可解な事には構っていられないと言う現実は否めない。
違和感は残りながらも次の事件捜査に追われる日常だった。
そんなある日、一般警察本部の拾得物保管所のもう一つの出入り口から18、9歳位の少年が出て来るのを見かけた。
「おい、丹羽。あの出入り口、例の”島流し部屋”じゃ無いか」
「そうだな、子供が出入り出来る所じゃ無いな」
場所が場所だけに、何かが二人の琴線に触れた。
「ちょっと聞いてみるか」
そう言って山口がビルの間にある路地に入っていくその少年の後を追う、つもりだった。
「いない。おい、丹羽。奴が路地に入って行ったのは見間違いか?」
「いや、俺も見ていた。ここは隠れる場所は無い。反対側に出るのも思いっきりダッシュして20秒以上かかる」
「消えたな」
「ああ、消えた」
もやっとしたものが、少し形になった。
二人にはある答えしか出なかった。
「少しあの出入り口、張り込むか」
「無駄だとは思うが、その価値はありそうだ」
丸山と浅野の協力も要請するため二人は連絡を取る。
二つ返事で了承してくれた。
翌朝から時間を調整し、それぞれのやり方で出入り口を見張る。
別の案件を抱えながらの張り込みはひと月程になっていた。
その間、その出入り口を利用する者はいなかった。
それからさらにひと月程経った黄昏時だった。
最初に見かけた少年とはまた別の少年が島流し部屋に繋がっていると噂されている拾得物管理室の出入り口から入って行くのを確認。
出て来るのを待った。
深夜になり、その少年は出てきた。
路地で待ち構えていた山口が少年に近づく。
「ちょっと君、今あの建物から出てきたね」
探るようにその少年を見つめる山口。
どう見ても未成年だ。
「そうですが。何でしょう?」
「何をしていたのか聞きたいだけだよ」
「落とし物を捜しに」
「それは何?やけに時間がかかっていたけど、見つかったのかい」
「ビンテージ物の腕時計です。落とし物倉庫には数が多すぎて。結局見つかりませんでした」
「どんな物?」
「大昔に流行ったG-SHOCKです」
「なれた感じで出入りしてたみたいだね」
「ええ、何度もきているのでもう顔パスです」
「何度も?」
「ええ、だからG-SHOCK以外の物も見て良いって。それが楽しくて。それでいつもこんな時間になっちゃうんです」
「こんなに遅くまで。親御さんは心配じゃ無いかな」
「親はいないので」
「亡くなったのかい?」
「いえ、はじめからいません」
「それは悪かったね。念のため、名前と連絡先を教えてくれるかい」
「判りました」
井上と名告った少年の言った連絡先は軍関係の施設だった。
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