第10話 メンバー (固まりゆく絆)

 その後、何度か出動があった。

ファーストミッションでは皆、本当に力をセーブしていたようだ。

徐々にではあったが、敵に対する攻撃が容赦無いものになっていった。

相変わらず後藤は、最終段階での井上への隠し事をしていた。

八神が何も言わないのはデータを取るため、指示を受けているからだろう。

他のメンバーとの距離感も近くなった頃だ。

八神が全員を集めて話し出す。

「井上も大分なれてきたようだな。もう少しチームメンバーの事を話しておくか。海老名、後藤。かまわんか?」

黙って頷く二人。

「海老名はマッドドクター。元は軍医でな、治療に能力を使っていた。だが戦場では患者を治すより増える方が多いだろ。ある時切れてな、敵も味方も相手構わず攻撃する方に廻っちまった。元々医者だからな、効率的に人を殺す急所を知り尽くしている。現場は文字通り地獄絵図の有様だったよ。それで俺に”拘束”依頼が来たわけだ。その時仲間になるよう説得した。最も生きるため、選択せざるを得なかったろうが」

「なるほど、よくある話ではあるな」

まあね、と言うように海老名がおどけて両腕を広げる。

「後藤は覗き屋。理由はもう判るな。元々犯罪組織側の能力者だった。稀少な能力だが組織での戦闘力としては評価が低く、ぞんざいに扱われていた。本人もそれが不満だったようで俺がヘッドハンティングした。最もその後組織とはかなりもめたが」

「組織といえど、軍には敵わないだろう。それで条件は良かったのか」

にやっ、と後藤が笑う。

「俺は収集家だな」

「収集家?」

「レアもの専門のな。海老名と後藤という世界に2人といない特化された能力者を部下に持っている。そして2人とも俺には逆らえない」

「八神の”場”は特殊だ。俺たちの能力を封じ込めながら少しづつコピーしている?…命をかけて切り札の能力を使えば勝つ事が出来るかもしれんが、俺たちが生き残る確率は半分以下だ。命をかけて戦うにはリスクが大きすぎるからな。それにこのZ班に居れば俺たちの欲求を満たす事が出来る」

海老名も後藤も同意見のようだ。

「まあ利害の均衡は保てるわけだ」

利害だけの繋がりでは無い事は、言葉にするまでも無くこれまでの時間が教えてくれていた。

「井上、お前に対しては少し違う。お前の分解は俺にも対処出来ない。だが、それが不快では無い。この気持ちが自分自身理解出来ないでいる。それが何故か心地良い。これまで感じた事の無い感覚なのだ。俺にこんな二通りの感覚を堪能させてくれる今の状況は俺にとっては至高の時間なのだよ」

「リアクションに困るような事、言うな」

現状が心地よいのは井上も同じだった。

このメンバー一人でも欠いていればそんな気持ちにはなれないだろう。

”ファミリー”という言葉が頭をよぎる。

能力者であったが為、本当の家族からは受け入れられる事が無かった者たちだ。

それ故、チームメンバーの繋がりは深いものがあった。

「さしずめ俺は掃除屋ってとこか」

「そんなとこだな」

「掃除と言うより消滅だがな、消滅屋なぞ聞いた事が無いからな」

「いや、良い商売になるかもしれんぞ。起業して見るか?需要は多いと思うぞ、裏の世界では」

「どうせ俺は裏の世界でしか必要とされないさ」

「無用な人材で無いだけましじゃないか」

「それ、喜ぶとこか?」

皆一斉に笑い出す。

「いや、ギャグじゃ無く」

「お前の存在自体がギャグみたいなもんさ」

再び皆笑い出す。

彼等の互いを見るその目は、兄弟を見るような親近感と優しさに溢れていた。

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