第9話 ファーストミッション (実感も緊張感も無い初陣)

 時間となり、現場に来ていた。

「このインカムを付けろ」

「後藤さんが居るのに必要か?」

「お前のは特別製だ。この中には各種センサーも入っている」

「なるほどね」

「研究所の外には出られたが、モルモットである事には変わりは無いと言う事か」

「そう自分を貶めるな。俺はお前を稀少な人間と考えている」

「一応感謝しておくよ。しかし作戦としては雑じゃ無いか?」

「お前が”反応”をコントロール出来ん以上、こうなるわな」

「実戦データの収集と言うわけだな」

「研究所の外に出す条件のひとつだ」

「了解しているさ、俺のお守り役も大変だな」

「結構楽しんでいるよ」

「それはどうも。じゃ、行ってくるわ」

その言葉が合図かのように八神が”場”を張り巡らす。

「犯罪組織が薬物の売をするのを阻止せよって言われてもな。一般人を一時的に能力者にする薬物だと?誰がどうやって作ったかが問題だろうに。そっちは別の班か。仕切っているのが組織のNo,2の息子ってか。まあ、敵の全員が一時的にせよ能力者だったらヤバイわな」

「ブツブツ言うな、相手はたかが30人弱だ。海老名も支援に入っている」

「はいはい。了解しましたよ」

問題の倉庫の前には3人見張りがいる。

海老名が何かしらの武器を具現化し、3人の頭が吹き飛ぶ。

「派手だね。こちらは上品にいきますか」

そう言って倉庫のドアをノックする井上。

男がドアを開け、井上を見る。

「誰だ、お前は。見張りの連中はどうした」

「見張りはいませんでしたよ。お宅ら、変な薬を持っちゃあいませんか?出来ればそれを全部こちらに頂きたいのですが」

話し声が聞こえたせいか、倉庫内の雰囲気が一瞬で変わる。

次の瞬間、海老名が具現化した武器で攻撃をする。

数秒の出来事だ。

「お見事。では薬物を回収しますか」

倉庫の中に入り、薬物が入っていると思われる箱の前に立つ。

「こんな大量の薬物、どこに運ぶ気だったんだ?」

言い終わらないうちにテレパス攻撃を受けた。

海老名の攻撃を能力で防いだ者がいたようだ。

後ろでうめき声がする。

見るとおでこのあたりがめり込んだようになっている男がしゃがみ込んでいる。

「ごめんよ、俺は何もしちゃいないんだが、俺のせいだ」

「何を訳の判らない事を言っている」

振り向くと、目の前に女が立っていた。

「これは綺麗なお姉さん。ひょっとしてテレポーターです?」

「これは貰ってゆくぞ」

「あ、やめた方が良いですよ」

「邪魔をするなら殺す」

「私は邪魔なんかしませんよ」

「ふん。意気地の無い男は大嫌いだ」

「あなたのように美しい方からそう言われると、意地を張りたくなりますが私はただ忠告しただけですよ」

「又訳の判らない事を言う」

女の後ろに海老名が具現化した武器が出現する。

瞬間、女はテレポートする。

きゃ、ともぎゃとも取れる声が聞こえる。

八神の”場”に弾かれたようだ。

ほぼ同時に井上の”反応”が起きる。

海老名の具現化した武器から発射された大型弾がテレポートした女をすり抜け、井上に当たったようだ。

例の薬物と共に半径10Mが消滅した。

『頼むよ、海老名さん。後藤さんもあの女の存在、知っていたでしょ。送られていませんよ』

『井上ちゃんの好みかと思ってさ』

『おふざけもほどほどにな、後藤。撤収するぞ』

『って、いいんかい!』

『薬物の回収も出来れば良かったのだがな』

『そうじゃなくて後藤さん…まあ、いいや、確かに好みではあったし。それで彼女は?』

『付き合いたいと言っても、残念ながら』

『八神に捕まった場所が高すぎたな。15M意識無く落下すれば言うまでもないな』

『後藤さん、楽しんで無いっすか』

『いや、真面目に職務を果たしているさ』

『皆、インカムを外して良いぞ。回線を切り替える。本部に報告して終了だ』

「俺って、何か仕事したかな」

「データは十分取れたろうさ」

「何だかな。それで良いのかな、チームメンバーとして」

「まあ、全部消滅してくれれば後片付けが楽になる」

「それって、もっと派手にやれって事?」

「コントロール出来るのか?」

「出来たら良いのだけど」

「今回、海老名も抑え気味だったからな」

「あれで?」

「お前に与える刺激を考慮したのさ、あれでも」

「それはどうも…本当に?」

「事実だ」

Z班メンバーにより出来た窪みから出された。

戦闘したという実感の無いまま井上のファーストミッションは終了した。

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