第8話 ポリスデパートメント (配属された部署)
軍属になる事で、ある程度の自由は手にする事が出来た井上だった。
定期的に軍の特殊能力研究施設での検査を受ける事と、特務警察特殊部隊内に新設された非公開組織であるZ班に身を置く事が最低条件だ。
それ以外の条件は井上にとって、どうでも良いくだらないものだった。
そのひとつが住居は特殊能力研究施設の一室である事だ。
Z班に割り当てられた部署で寝泊まりする事が多くなったのもそのためだった。
Z班の部署は特務警察特殊部隊本部の地下にある。
特務警察特殊部隊の訓練”道場”のさらに下に作られた一室だ。
入り口は特務警察特殊部隊隊員達とは別に作られていた。
特務警察特殊部隊本部に隣接している一般警察本部の拾得物保管所のさらに奥にある拾得物管理室別室に作られていた。
一般警察署員からは”二度と戻れぬ島流し部屋”と呼ばれ近づくだけでも縁起が悪いと、そこに来る者などいなかった。
その部署に所属する者に会うと大失敗をやらかすとも噂が流れ、一般警察本部の”もう一つの裏口”から出入りする事とされていた。
”通勤時間”もずらされていた。
そのため、特務警察特殊部隊員はもとより一般警察署員の誰もZ班メンバーの顔を知らない。
八神に連れられ、井上はZ班の部署に来ていた。
途中、様々な拾得物に興味を待ったがゆっくり眺める時間をもらう事は無かった。
そのうち一人で来て、ゆっくりと見たいと考える井上だった。
過去の記憶の無い井上にとっては、初めて見る宝の山のように見えたのだろう。
それを見ているうち、戻る記憶があるかもしれないという期待もあった。
後日、拾得物を確認する時間は取る事は出来たが、記憶が戻る事は無かった。
ただ、現在の文化に触れるには十分であった。
たとえ記憶が戻らなくとも、拾得物を見たり捜査したりする事は井上にはとても新鮮だった。
時間を忘れ滞在し、Z班の部署に泊まる事もあった。
それほど刺激に満ちた場所だった。
話は戻り、八神とZ班の部署に入ると海老名ともう一人、初めて会う人物がいた。
「海老名はもう知っているだろう。こっちは後藤という」
井上がどう挨拶をしようかと思った瞬間、頭に部屋の間取りと調度品、その中に入っているもののイメージが全て流れ込んできた。
理由も理屈も判ってはいないが攻撃等悪意の無いテレパシーには、井上の”反応”がおきないことはこれまでの実験で判明している。
「これが私の能力。初めまして、井上さん」
「初めまして、後藤さん」
「まあ、堅苦しい挨拶はいらんだろう。今ので後藤の能力は理解出来たな」
「すごいな、ここで迷う事なんてもう無いな。トイレットペーパーがどこにあるかも一瞬で頭の中に入った」
「じゃあ、後藤。頼む」
一瞬で指令の詳細が頭の中に入ってくる。
「俺のファーストミッションって事だな」
「必要なものはもう揃えてある。実行まで自由にして良し」
「実行はいつも深夜なのか?」
「そうでも無いが、理由は言わなくても判るだろう」
「やはり俺か」
「仕方あるまい。”反応”は極秘事項だからな。闇に紛れて、だ」
井上の思考は先程の拾得物に移っていた。
時間つぶしには丁度良い。
楽しみをひとつ見つけた子供の様な顔になっていた。
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