第4話 ニューチーム (その2 自己紹介代わりの模擬戦)
初めて朝から班のメンバーが全員揃っている。
「朝から申し訳ないが、”道場”に行こうか」
隊長の八神が言う。
道場というのは地下数キロに造られた特殊班の実践練習場だ。
「他の班の能力者程度ならこれでもいいが、念のため”場”を造る」
それが八神の能力だ。
八神が造った場は、その内部からであっても外部からであっても、いかなる強力な能力者の攻撃であっても破る事は出来無い。
テレポートで逃げる事も出来無い。
能力者を封じ込める事に特化している。
特殊なシールドのようなものだ。
その中に他のメンバーが入れられている。
「とりあえず各自、コーナーで待機。だな」
面倒くさそうに井上が言う。
「送るよ」
後藤が言う。
すると道場の中にある物体の位置、形状等自分の目で隅々まで見てきたかのように頭の中に浮かぶ。
後藤の能力は空間把握と情報伝達。
後藤がその場にいなくとも特定の区域の隅々にいたる情報を把握し、特定の相手と共有する事が出来る。
共有した者同士の意思疎通もタイムラグ無く可能となる。
能力者が存在をどのように消そうとしても、どこに何人いるかを欺く事は出来無い。
「始めるぞ」
海老名が言う。
至る所に現存するいろいろな武器が突然現れ、攻撃を始める。
海老名の能力はイメージの具現化だ。
実際はそう見えるだけだが海老名の能力が特殊なのは、例えば海老名が具現化した武器が銃だったとする。
銃から撃たれた弾はイメージがそう見えるだけであるため、サイコキネシス攻撃のように実際に物質が当たるのでは無い。
具現化能力は海老名以外にも存在するが、大きなダメージを与える能力者は希である。
だが、海老名は相手に本物の銃で撃たれたダメージを与える。
高出力レーザー銃をイメージすれば実際その銃で撃たれたダメージとなるのだ。
イメージした武器の破壊力が忠実に再現されるのである。
それも対人だけで無く、対物に対してでもあった。
海老名がイメージするのは武器だけでは無く、攻撃されたその結果までだ。
「道場の中央にある缶を取ってこい。それが石川の課題だ」
八神から課題が出される。
海老名の具現化した武器は石川を集中攻撃するが、何事も無いかのように石川は歩き道場の中央にある缶を取る。
「この缶をどこに持って行けば良いのですか?」
「…能力の無効化とは聞いていたが、海老名の能力も無効化出来るとは」
隊長の八神を経由し、石川の能力は他のメンバーにも伝えられていた。
「石川、無効化可能な範囲はどれくらいだ」
「今は50から80M程です」
「そろそろ気体密度がやばいな。今日はこれまで」
「前回の出動の時にもおっしゃっていましたが、どういう事ですか」
「井上だよ。奴は自分に対するあらゆる攻撃を原子レベルで分解する」
「それが井上副隊長の能力なのですね」
井上は道場の一角に腰を下ろし、海老名の攻撃にも動く事は無かった。
「いや、俺の能力は着ている服が消えないように出来る事さ」
井上の返答に後藤と海老名がクスクスと笑っている。
「?」
訳がわからない石川。
「能力では無いらしい」
八神が答える。
「どういう事です」
「まだ調査中だ。定期的に施設に行くのもそのためだ」
「…」
突然井上にナイフを突き立てる石川。
しかしナイフの刃は井上には届かず消滅していた。
「能力の無効化を発動していたので、ナイフは刺さるはずなのですが。それに八神隊長の”場”も無効化出来ない。能力である八神隊長の”場”、能力で無いと言う井上副長の分解。面白い」
「お前、そんな恐ろしい事をしておいて、面白いとよく言えるな。1年前なら俺たち毎消えていたぞ」
後藤がにらみつけるように言う。
「まあ良いさ。Z班にようこそ、石川。合格だ」
八神がそう言って石川の肩に手を置く。
「まあ、これでお互いの能力も理解出来ただろう」
「ま、実際にやらないと理解出来ん事もあるわな」
海老名があくびをしながら言う。
「そういうこと」
皆、余裕のある感じだ。
本気を出していないのか、他に隠している能力があるのか、石川には掴めなかった。
「お前がZ班に配属された理由がわかった。俺に関する情報収集もあるのだろう」
井上が石川を見据えて言う。
「隠すつもりはありません。おっしゃる通りです」
「正直な奴だな。まあ、八神も含め、全員がそうだからな」
後藤と海老名がニヤニヤとしている。
「皆?副隊長、それを知っていてこの班に?…つらくはないのですか」
「俺が生きていられるのはこいつらのおかげだ。感謝しかない」
石川がその意味を理解するのに、2年を必要とした。
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