第3話 ニューチーム (その1 良く判らない先輩方)

 珍しく今日は朝から井上副隊長が”出社”していた。

「おはようございます。副隊長」

「石川だっけ、早いな」

集合時刻の一時間前に来たのだが、この人は何時に来のだろう。

そう思った次の瞬間

「昨日からここに居るよ」

と、井上が応える。

「?自分は声に出していないはずですが」

「顔を見れば判る。お前は判りやすいな」

訓練所の仲間からは逆の事を言われ続けてきた。

どう答えたら良いか、すぐには出てこなかった。

こんな時は素直に言った方が良い事を石川は判っている。

「訓練所では仲間から逆の事を言われてきました」

「そいつらがぼんくらだっただけだ」

言い終わらないうちに隊長の八神が来た。

「早いな、石川。井上、又ここでお泊まりか」

「おはようございます、隊長」

石川が敬礼をしながら挨拶をする。

「おはよう」

「遅よう」

「何だ、遅刻したわけじゃないし、集合時刻の一時間前だぞ。遅くは無いだろ」

「おせーよ。隊長が一番先に来なくて、どうすんだ」

「準備は昨日完了している。お前のようにあんな所でぐっすり寝られるほど、鈍感じゃ無いからな」

お互い憎まれ口をたたき合っているが、それは信頼し合っているからだと海老名から聞いていた。

海老名とは、Z班のメンバーの一人。

もう一人は後藤だ。

皆、一癖ありそうな連中ばかりだが、各自の”能力”は極めて高い。

隊長の八神にしろ井上にしろ、本名では無い。

当然石川猛という名前もだ。

特殊部隊の中でも、特別な隊であるZ班のメンバーは、全員表に出るデータは消されている。

どこかには36桁のパスワードが3重にかけられた本当の自己証明があるらしいが、それが消えれば本当の自分もこの世から消える。

何しろZ班のメンバー全員死んだ事になっている。

ある理由も有り、顔も整形で別人になっている。

街で親族がとなりに来ても、気づかれる事は無いだろう。

ただ、井上譲司については、本当に記録が無いらしかった。

石川は訓練中の事故で死んだ事になっている。

最も死んだのは石川という名前で無く、本名の方の人物だが。

後の二人、海老名と後藤も”出社”してきた。

「おはようさん。副隊長さんは今日もお泊まりか」

井上が朝から居ると言う事は、どうもそういうことらしい。

「皆の顔が早く見たくてね」

「笑えんジョークだ。新人君はもう慣れたかな」

隊長以外では一番まともと思える海老名が言う。

「はい。と、言いたいところですがまだまだです」

「まあ、そうだろうね。だが、早くなじんでもらえないと」

「承知しておりますが、ここはかなり複雑なので」

石川がそう言うのも無理は無い。

Z班のメンバーは皆、”特別な能力”を有しているからだ。

しかもそれぞれ能力は違うが、特化され異常なほど強い。

通常の班は能力の質とその強さにより、第1班から第13班までで構成されている。

彼等は”一般人”と同じだ。

出生も名前も隠さず、生活も普通にしている。

能力者であるため、組織が違うだけで公務員と言う事だ。

アルファベットが付けられているのはZ班だけだ。

所属も曖昧で特務警察特殊部隊の一組織だが、軍属であると言う側面もあった。

それ故か、その存在は他班の者も知らない。

知っているのは上層部の、それも一部の者たちだけだ。

特別な隊とはそういう意味合いだ。

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