第3話

「邪魔だ!

 どきやがれ!

 この追放野郎が!」


 眼が見えなくなり、耳も聞こえなくなった今のガイには、街のチンピラにすら抵抗できず、ただ殴られ蹴られるしかなかった。

 全ての装備と財産を勇者パーティーに奪われ、乞食として生きていくしかなく、街にわずかにいる心優しき人に恵みを糧に、虫けらのように生きていた。


「なにをするのですか!

 それでもあなたは人間ですか!

 身体の不自由な人をいたぶるなど、犬畜生以下です!」


「なんだと?

 俺様に向かってそんな口を利いて、平気でいられると思っているのか?!

 俺様はザビ一家のもんだぞ!

 逆らえば修道女であろうとただでは済まさんぞ!」


「ザビ一家だか錆一家だか知りませんが、身体の非自由な人をいたぶる人間は、月神殿の聖女の名に懸けて、絶対に許しません。

 これ以上暴力をふるうというのなら、神罰を下しますよ!」


「聖女だと?!

 聖女様はエタ様だ!

 騙りはこの場でひん剥いて嬲り者にしてやる」


 街のチンピラは恐れることなく聖女セイラに襲いかかった。

 だがチンピラごときが、本当の聖女にかなうはずがないのだ。

 特に月神は、慈悲の神であると同時に夜の神でもあるのだ。

 怒りに転じた時の月神の神罰は、情け容赦がない。

 特にセイラは治癒魔法の聖女だ。


 セイラが放った攻撃用の治癒魔法。

 過剰治癒による身体の破壊。

 そのあまりの激痛に、チンピラは地面の上でのたうち回った。

 激烈な痛みと狂うほどの痒みに襲われ、知らず知らずに絶叫をあげていた。

 しかもすぐには死ねない。

 月神は夜神、治療神、農耕神、予言神、海神、漁業神、戦神でもある。

 そのうちの夜神の姿を見せた時の月神は、残虐非道なのだ。


「大丈夫ですか?

 まあ!

 凄いケガではありませんか?!

 直ぐに治して差し上げます」


 セイラはガイのあまりの重傷さに驚いた。

 今直ぐ受けたケガではないが、凄まじい後遺症なのが分かった。

 しかもケガだけではなく、呪いまでかかっていた。

 後遺症と呪いによる複合的な症状だった。

 これでは上級の治癒術を使える者でも治せないし、解呪を使える魔術師でも治せない、とても重い障害だった。


 だが、どれほど重い障害であろうと、セイラに直せない病気やケガはない。

 高度な呪いであろうと、セイラに解呪でいないモノはない。

 今迄ガイが苦しんだことが嘘のように、一瞬で完治した。

 眼が見えるようになり、耳が聞こえるようになり、香りが分かるようになり、身体が昔のように動くようになった。

 ガイが復活した眼で見たセイラの姿は、神そのものだった。


「神様!

 このご恩は死ぬまで忘れません。

 命のご恩は命で返させていただきます。

 この命尽きるまで、神様に仕えさせていただきます」

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