第2話

「ベルト公爵家令嬢セイラ。

 お前は自身を聖女と偽り、王太子の婚約者の座を盗んだ。

 将来の王妃の地位を手に入れんと、本当の聖女ヴァネッサの力を奪った。

 許されざる大罪である。

 本来なら処刑するところだがベルト公爵家の長年の忠勤に免じ国外追放刑とする。

 ありがたく思え」


 国王が氷像のような冷たい顔で淡々と罪状を読み上げ判決を下した。


「嘘でございます、と言っても無駄なのでございますね」


 それに対して全く動じることなくセイラが問う。


「ああ、無駄だ。

 この国の守護神を奉じる月神殿の神託を覆すことは、国王にもできない」


「しかしながら国王陛下。

 月神殿の神官が腐敗し、守護神月神様を悪事に利用していればどうなるのですか」


「黙れ黙れ黙れ!」

「そうだ黙れ!」

「我ら月神様を奉じる神官を愚弄するか!」

「追放など甘い!」

「そうだ、追放など甘い!」

「死刑だ、この場で殺してしまえ!」


「黙れ!

 ここは神殿ではない!

 ここは王宮の裁きの間だ!

 余の裁きに否やを申せば、神官であろうと処刑してくれるぞ!」


「……」


 国王を判決に従わず、裁きに口出ししていた神官達が一斉に黙った。

 国王の本気をひしひしと感じ、本当に殺されると恐怖して固まったのだ。


「ベルト公爵家令嬢セイラ。

 お前の疑問はもっともだ。

 だから追放する前に聞かせてやろう。

 簡単な話だ。

 神罰が下って死ぬだけだ。

 とても慈悲深いと同時に、厳格で悪事を許されないのが月神様だ。

 戦いの神でもあられ、自ら先陣を切って魔族魔王と戦われる月神様だ。

 恩名を悪事に利用されて、黙っておられるはずがない。

 もし本当に神殿がセイラの言うような悪事をしているのなら、この裁きが確定した今から、月神様の神罰が下るであろう。

 分かったらさっさとこの国から出る事だ」


 国王の達観した、いや、諦めきった言葉を聞いて、多くの神官達が心身を凍りつかせて、身体をガタガタと振るわせはじめた。

 今ようやく、自分達の冒した大罪の意味を理解した。

 本当に愚かで馬鹿だ。

 

 だがそれは高位神官だけではなかった。

 今回の一件に加担していた有力貴族も慌てふためいていた。

 数百年に及ぶ安寧が、守護神との契約の意味を甘く見させてしまっていた。

 だが、今の国王の滅亡を受け入れた達観した言葉に、ようやく自分達が絶望の淵に立っている事を気づかせた。


 だが事この期に及んでも、全く危機感を持っていない者もいた。

 誰あろう国王の一人息子、ジオン王国王太子ジェロームと、アームストロング侯爵家令嬢ヴァネッサと、ジオン王国月神殿大神官ケヴィン・ワイスだった。

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