転生戦士は勇者パーティーを追放されるも、追放婚約破棄令嬢に救われ、スローライフを目指す。

克全

第1話

「逃げろ、ここは俺が何とかする。

 こんな所で勇者を死なせる訳にはいかない」


「ひぃいいいいい!」

「きゃあああああ!」

「うぁあああああ!」

「くるな、くるな、くるなあああ!」


 無様だった。

 普段偉そうにしている勇者と仲間達が、思いがけない場所で低級魔族に出会っただけで、仲間を見捨てて逃げだしたのだ。

 唯一勇敢に魔族に挑むのは人族の戦士ガイだけだった。


 貴族の血を引くと自慢していた勇者ロイは、実は貴族の私生児で認知もされておらず、神殿が上手く政治的に利用するために勇者の称号を与えただけだった。


 誇り高い選ばれた獣人族の戦士だと自称していたモアは、卑怯なふるまいをして獣人の村を追放されたはぐれ者だった。


 聖女を自称して他の勇者パーティーメンバーを見下し、常に高慢な態度を取り続けていたエタは、高位神官の父親の不正で聖女に選ばれた、偽聖女だった。


 事あるごとに大陸連合魔法学院出身を自慢する攻撃魔術士のラルは、実は大陸連合魔法学院を退学になった落第生だった。


「くっくっくっく。

 ここでお前を殺す事など簡単な事だ。

 だがここで殺すほど私は優しくない。

 仲間の元に戻って、本当の地獄を味あうとよい。

 人間の薄汚さを知り、絶望するがいい」


 低級魔族に命を賭けて挑み、仲間を逃がすために満身創痍となったガイに、低級魔族は実に楽しそうに話しかける。

 満身創痍とは言っても、手足を失ったわけではない。

 指一本失っていない。


 だが、身体中の神経をズタズタにされ、元通りの動きが全くできないでいた。

 気を失ったガイは、ダンジョンの入り口に打ち捨てられていた。

 そして取り返しのつかない後遺症を受けたガイを待ち受けていたのは、仲間達の薄汚い裏切りだった。


「ガイは魔王と必死で戦う私達を裏切り、恥知らずにも逃げ出しました。

 ガイを勇者パーティーから追放いたします」


 誰よりも先に逃げだした勇者ロイが、命懸けで助けてくれたガイを卑怯者だと言って罵り、勇者パーティーからの追放を訴える。


「勇者ロイの言う通りです。

 私達が命を賭して魔王の降臨を防いでいる時に、卑怯にも逃げだした事、聖女として神に誓って証言します」


 偽聖女が神の名を騙って偽証をする。


「勇者ロイと聖女エタの証言を、誇り高い獣人族の戦士として保証します。

 ガイは恥知らずで卑怯者です」


 獣人戦士モアも偽りの証言をする。


「勇者ロイと聖女エタと獣戦士モアの言葉に偽りがないことを、大陸連合魔法学院出身の魔術士として保証します」


 攻撃魔術士ラルも命の恩人ガイを裏切る。


「仲間を裏切って逃げだしたガイを追放する事、月神殿ジオン王国神殿長として認めます」


 ガイは悔しかった。

 勇者達は無残な敗戦を誤魔化すために、口さえきけなくなったガイに敗戦の責任を押し付けた。

 しかも敵を低級魔族ではなく魔王だと偽っている。

 しかもその卑怯な行為を知りながら、神殿は身内の娘エタを助けるために、ガイを斬り捨てたのだ。

 いや、これからも勇者一行を政治利用するために、月神の名を穢したのだ。

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