主十一ノ一話 なんだ (閑話的な)
「なんだ。」
「なんだってなんだよ」
「やっぱり公園にいるんだな、って思って。」
「公園にいちゃダメ?」
いや別に…何か文句がある訳でもないのに険悪になってしまった。
現在、朝早く、公園のベンチに遼は座っている。
僕はちょうど公園に入ったところだ。
公園はとても小さく、入り口とベンチはほど近い。
僕は遼の隣に座る。
「ナチュラルにうざい」
唐突なDisり。
「何で?」
「普通あんまし親しくない奴の隣に座らないだろ」
中学の時に親しい友達がいなかったようなやつに普通とか求めんなよ。
「それで、何しに来たんだ」
「遼くんに会いに❤」
ゴホッ、と遼は咳き込む。
「キモ過ぎて吐くかと思った。」
「そんなひどくないでしょ。僕の声。」
「女子の声と声変わり期の男子の声は全く違う。」
そうか。もう声変わりか。やっと来たという感慨が少し。
気付いてたけどね。
「小さい男子にキュンとしても良いんだよ?」
「無いな。」
残念です。まあ僕も格好いい人よりは可愛い人が良いから。
「僕が何しに来たと思う?」
「俺に会いに来たんじゃ無いのか?」
「お、それ良いね。イケボでもう一回言って?」
舌打ちで返される。
「友達の友達の従兄弟が不登校になった話を聞いて、遼に会いたくなった。」
「で?」
「何で不登校になったの?」
変な顔をされた。
変顔をした。
顔を殴られた。ベンチごと倒れた。
遼も倒れた。
「何でだと思う」
「いや、知らんけど。」
寝転がったままだと辛いので立ち上がる。
「学校でちょっとぶち切れて人を殴ったら、全治一週間の怪我とかで、でもそいつは学校辞めたんだよね」
だから何だ?
「遼は関係なくない?」
「いや、俺が殴ったんだよ?」
「分かるけど、学校辞めたのとは関係ないよね。…あと、そういう重い話になると思ってなかったからスルーして良い?」
「そうか?まあここまで話したから話すわ。聞いて?」
僕はスルーした。暇だったから途中から本を読んでいた。
出会ってから一週間も経ってないような相手によくここまでプライベートな話を出来るなと驚いたが、溜まってたのかな。
二時間が経ち、遼は話すのを止めた。
「聞いてた?」
僕は首を振る。出来ることなら斜めに振ってみたかったが出来なかった。
「まあ良いや。今日は帰る」
僕は止める。
「二時間も立ち話させられた僕の要求も聞いてくれないかな。」
「ベンチ立てれば良かっただろ」
「それじゃ今の要求が出来ない。」
遼はベンチを立てて座る。
「夏休みに友達と遊びたいんだけど、友達には彼女もいるから毎日誘うのが申し訳ないんだよね。」
「へえ。他の友達誘えば?」
「だから、一緒に遊ぼうよ。」
誘ってみる。
「何をして?」
「特に無いんだよね。」
へえ…大変だな。などと言いつつ遼は帰っていった。
夏休みって何をすれば良いのか分からないよね。ネトゲでも始めようと思ったけどあんまし手が付かないし、友達とは遊ぶだろうけど、特筆すべきということもないだろう。
夏休みとはかくも早く過ぎるものかと感動しつつ三十一日までは記憶から割愛されるかもしれないがそれも致し方ない。
━━━
(本編が短くなったのでオマケ。)
私、松木純は女である。何事も際どい部分を攻めるのが好きな女である。
男と女の
あとは祇須智のことが好きだ。というか祇須智に見られるのが好きだ。
理性と本能の際…とか言うと忌々しきポニテに一歩引かれるからもう言わない。
前者と後者のジンテーゼとして私は際どい服装が好きだ。
「純はよくそんな、ビキニみたいな格好を出来るわよね。」
過去にそんなことを言われたが、由子もよくそんな大胆なポニテに出来るねと返した。
行動は違っても理由は同一だ。
「今日は忌々しい名出がいないから、際どい格好が出来る。」
由子にそう言ってみる。由子はいつもいいリアクションをする。
「純って世界の何もかもが忌々しいの?」
今日のはジト目だった。
「祇須智以外は。」
そう返す。
「境界も好きだろ。」
祇須智が起きてそう言う。私をよく知ってる。でも境界なんかより祇須智のほうがずっと好き。
「…もう高校生なんだから、俺の両側で寝るのは何か恥ずかしいよ。」
祇須智はそうも呟いた。
私は片側しか陣取っていないのにもう片側をポニテが陣取るから。
「私は悪くない。」
祇須智は何も言わず優しく頭を撫でる。ポニテではこうもいくまい。
祇須智はポニテでよく手遊びするが。
…祇須智が私を見ているのを感じる。
「目線が下がってるわよ。」
そう指摘されて祇須智は目を上げた。
私は由子を睨む。文句を言いたいところだ。
「不健全よ?そういうのって良くないわ」
由子は言う。
忌々しい。
由子だって夜、祇須智と一緒に寝ているのにいまさら何を言っているのか。
でもそれを言うと
「それは…純を牽制してるだけよ。」
とか返されるに違いない。顔を赤くしながら。さぞ可愛かろう。
夜、祇須智は由子の方を向いて寝る。一度、こっそり位置を入れ替わってみたが、朝には由子の方を向いていた。
忌々しい、けど祇須智だから許せる。
「今日は直ぐに帰るのか?」
そう聞かれる。まさか。それならこんな格好をするはずがない。
「ひどい。」
祇須智を軽く睨みながら言う。
「ごめん、からかっただけだよ。」
また頭を撫でる。私は抱き締めて欲しかった。そんなことされたことは一度も無いが。
「帰るのにも時間が掛かるから、三時にはここを出るわ」
「三時までここで遊ぶ。」
そういうことになった。私は鞄から人生ゲームを取り出した。
祇須智とするならやっぱりボードゲームが好きだ。ただし床に敷いてやること。だって目線を下げないと遊べない。
由子はババ抜きが好きだ。祇須智をじっと見れるから。
見られたい人と見たい人、相反する人同士が仲良くなるのは世の常か。忌々しい世の常だ。
楽しい時間は直ぐ過ぎる。
部屋の中は暑かったけど、誰も冷房を点けなかった。
祇須智は点けようとしたかもしれないけど、リモコンは私たちが持っていた。
由子は白いシャツの第三ボタンまで外した。腕もまくっていたし、それ以外も透けていた。
私はマイクロミニを脱ごうとしたが止められた。仕方ないので下だけを脱ごうとしたがやっぱり止められた。
忌々しいポニテが止めた。
本当に暑かったのに。
耐えられないほど暑かった。身体中が濡れていた。半分は気温のせいだった。
三ヶ月も離れていたのに、祇須智は私たちに何もしなかった。寂しくなかったのだろうか。私は寂しかった。高校生になったのに私たちは幼馴染みのままだ。
間違いの起きそうな空気だった。全員の脳にそのサインがあった。欲情と、抑制のサイン。
私が襲えばあるいは…でもそれはしたくなかった。それはただの感情のない作業にしかならない気がした。
祇須智自身で私を選んで欲しかった。
でも何も起きなかった。やっぱり。
帰る時間になった。祇須智は全然名残惜しそうじゃなかった。忌々しい名出のせいだ。
寂しいから抱きついてみた。生の脇腹を擦り寄せた。祇須智は悲しそうな顔をして由子を見た。
由子は祇須智の頬にキスをした。私はすぐに祇須智から離れた。
寂しかった。何かを悟った気がした。
いっそ小さい子供のままでいたかった。
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