52話 奇怪な三人組

 再びプラチナランクに昇格するため、依頼を受ける決意をした二人は、その日早めに宿をとった。


「あんたは馬小屋で寝てなさい」


 エリィはそう言ってクレイグを馬小屋の方へ押しやる。


「ああ、そうだな!」


 ミラは黙ってそれを見ていた。


 今や、このパーティの中でクレイグが一番の役立たずだ。


 おまけに、ロロを酷い目に合わせ挙句の果てに追放したのはクレイグなのだから、当然の仕打ちだとミラは思った。


「いい気味……」


 ミラは思わずそう口走り、慌てて口元を抑える。


 人を癒す治癒術師がみだりにそんなことを口にしてはいけない。


「あんたもそういうこと言うのね」


 エリィはそれを聞き逃さなかった。


「いや……これは……その……」


「あんたのこと、いい子ちゃんぶってていけ好かない奴だと思ってたけど、見直したわよ」


「え…………」


 エリィはにっこりとほほ笑みながらミラへ手を差し出した。


「明日から頑張りましょ、ミラ」


 ミラは戸惑いながらもその手を握り返す。


「うん、よろしく、エリィ」


 こうして、クレイグを虐げることによって二人は仲直りし、決意を新たにした。



 翌日の早朝、ギルドには大勢の冒険者たちが集まっていた。駆け出し冒険者から熟練冒険者まで入り乱れ、皆殺気立っている。


 手が空いている冒険者を片っ端から招集しているようだ。つまり、状況はそれだけ深刻であるということになる。


 その中には当然、エリィとミラ、そしてクレイグの三人の姿もあった。


 クレイグは相変わらず適当な返事をするばかりで、まともな意思疎通ができない。


 ギルドの中心にはいつの間にか大きな台が作られ、その上で立派な髭を蓄えた禿頭とくとうの大男――ここのギルドマスターが演説をしていた。


「今日、諸君らに集まってもらった理由は他でもない、ミルヴァ奪還の為である」


 男の声は、騒がしいギルドの中でも良く通った。


「――突如としてミルヴァに魔物の大群が押し寄せ、その連絡が途絶えてからかれこれ半月が過ぎようとしている。加えて現在、ミルヴァは濃い瘴気に覆われ外からは様子が確認できない状態だ」


 冒険者たちがざわつく。


「更に、ミルヴァ周辺にはトロールキングクラスの魔物がうろつき、容易に近づくことすらできない。そこで諸君らは、各自魔物を撃破しながらミルヴァへ向かって欲しい。王国軍の通り道を確保するのだ。――ミルヴァに到達したら内部の状況を確認した後、可能であれば一度脱出し我々に様子を報告してほしい。当然、危険な任務だが成功した暁には冒険者ランクの昇格を約束しよう!」


 その場にいた冒険者たちは歓声をあげた。


「要するに、オレたちはただの捨て駒か」


 その時エリィ達の近くで腕を組んで立っていた小柄な少女そう呟いた。


 腕に包帯を巻き、黒いマントを羽織ったその少女は更に続ける。


「どいつもこいつも自分だけは死なないつもりみたいだが、そんなわけがない。大勢死ぬ。無様に悲鳴を上げて助けを求めながらそれはもう無残に死ぬのさ。お嬢ちゃんたちもそう思うだろ?」


 少女はエリィの顔を見てにやにやと笑った。


「いたずらに不安を煽るようなことを言うのはやめな」


 刹那、少女の脳天に拳が振り下ろされる。


「あがあああああああああああっ!」


 苦悶の表情で地面を転がりまわる少女。


「あうぅ……!」


 やがて、うめき声を上げながらゆっくりと立ち上がり、涙目で頭を抱えてその場に座り込んだ。


 少女の頭を引っぱたいて止めたのは、真っ黒いローブを身にまとった背の高い女である。


「私の連れがまたおかしなことを口走ったようですまないねえ」


 女は体をくの字に折り曲げて謝罪をした。女が体を動かすたびにバキバキと骨の音が鳴る。


「ええと……あなた達は一体……?」


 ミラは思わず後ずさりながら、女に問いかけた。


「私かい? ……ただのしがない冒険者さ。私の名前は……ドロシー、そこでうずくまってるのがメイジー、私の後ろに隠れてるのがアシュリーだ。……ほらアシュリー、挨拶だよ」


 ドロシーの呼びかけに応じて、黒い髪に赤い目をしたアシュリーが顔を覗かせ、ぺこりと礼をした。アシュリーは黒いドレスを着ていて、とても冒険者がする装いには見えない。


 エリィは、おかしな三人組につかまってしまったと心底不愉快そうな顔をした。


「ええと、私の名前はミラです。こっちがエリィ、もう一人……彼がリーダーのクレイグですが、迷宮から戻って以来、まともに会話ができません……」


「ほお」


 ドロシーは興味深そうにクレイグを見た。


「俺がクレイグだぜ!」


 胸を張るクレイグ。その時、ドロシーの瞳が怪しく光った。


「……こっちは三人、あんた達も三人。これから決死行だってのにちと人手不足だ。どうだい、ここは一つ六人でパーティを組むっていうのは」


「ああ、そうだな!」


「そうかい。よろしく頼むよ」


 不敵に笑うドロシー。


「え……でも……」


「な、なによいきなり!」


 ミラとエリィは勝手に話を進められ動揺する。


「君たちだって、味方は多い方がいいだろう?」


 その時だった。


「それではこれより、ミルヴァ奪還作戦を開始する! 各自パーティごとに分かれて、別個にミルヴァを目指すのだ!」


 冒険者たちは、勇んでギルドの外へ出て行く。


「おっと、時間が来たようだ。それじゃあよろしく頼むよ、クレイグ、エリィ、ミラ」


 ドロシーに名前を呼ばれた次の瞬間、エリィとミラは体が重くなるような感じがした。

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