51話 占拠された都市

「ど、どうしてよ! 降格するかどうかは今から審査されるんじゃないわけ!?」


 エリィは受付の台に手をつき、身を乗り出して抗議する。


「我々はロロさんの能力を高く評価していました。そのロロさんが、現在あなた方のパーティに所属していない以上、降格は確定事項です」


 受付は落ち着き払った様子でそう返した。


「なによ……それ……」


 呆然とし、肩を落とすエリィ。


 受付は淡々と話を続ける。


「ですが安心してください。あなた達は、すぐにプラチナランクへ戻るための審査を受けることができます」


「ど、どんな審査……なんですか……」


 ミラはゆっくりとその場から立ち上がり不安そうに問いかけた。


「あなた方には、ミルヴァの奪還作戦に参加していただきたいのです」


「…………?」


 意味が分からない。エリィとミラは首をかしげる。


「――先日、ミルヴァが迷宮から湧き出した魔物によって占拠されたとの報告が入りました」


 書類に目を落とし、三人へ依頼内容の説明を始める受付。


「ミルヴァが…………?」


 エリィは唐突に告げられた事実に驚愕する。


「一体どうしてそんなことに?」


 ミラが問いかけた。


 ――ミルヴァと言えば、この町の近くにある大きな町だ。当然、多くの冒険者が滞在している。そんな場所が魔物に占拠されるなど、ただ事ではない。


 そもそも、迷宮の外にそんなにたくさんの魔物が出てくるなどという話は今まで耳にしたことがなかった。


「詳しいことは分かっていません。しかし、こうなってしまった以上は戦力が必要です。現在、多くの冒険者がこのミルヴァ奪還の作戦に参加しています」


「それに……私たちも参加しろってこと……?」


「はい、その通りです。当然かなりの危険を伴いますが、見事奪還に成功した暁には再度プラチナランクへ昇格することも検討されます」


 受付は顔を上げて三人の方を見た。


「……どうなさいますか?」


「その依頼を受けなかった場合は……どうなるんですか?」とミラ。


「どうもなりません。ただ、あなた達がシルバーランクに降格したままになり、更にペナルティとしてブロンズランクへの降格が検討されるだけです」


「ブロンズまで!?」


 エリィは驚愕した。ブロンズといえば、それなりに実力のある駆け出し冒険者であれば、数日のうちに昇格できるランクだ。


 かなり長い間冒険者を続けている彼女たちがブロンズランクともなれば、周囲から実力不足と蔑まれ、白い目で見られるだろう。


 おまけに、


 エリィとミラはクレイグの方を見た。しかし、クレイグは何もせずにただ立っているだけでまるで頼りにならない。


「……やるわよ」


 そう発言したのは、エリィだった。


「わかったわよ! やれってことでしょッ!」


 受付を睨みつけながら怒鳴るエリィ。


「依頼を受ける、ということでよろしいですね」


「だからそうだって言ってんでしょ!」


 エリィは腹立たし気に言った。


「ちょ、ちょっと待ってよエリィ……!」


「何よ!」


「も、もう少し考えてから決めた方が――」


「あんたはそれでいいわけ!?」


 煮え切らない態度のミラに苛立ち、エリィは詰め寄る。


「確かに、あたし達がロロにしたことは最低だったわ。だけど、だからってそれがあたしが無能だって理由にはならない。あたしにはここまでやってきたって自負があんの! それなのに、依頼を受けなかったからなんてくだらない理由でプラチナからブロンズまで落とされるいわれはないわ!」


「エリィ…………」


「あんただってそうでしょう、ミラ! これでブロンズまで落とされたんじゃ、それこそロロに顔向けできないじゃない!」


 ミラは、はっとしたような表情をした。


――確かにその通りだ。自分に大した実力がないのに、もう一度ロロにやり直そうというのはおこがましい。


 散々ロロに酷いことを言ってきた自分たちが、本当の無能であったことが証明されることになってしまう。


 エリィとミラは、ロロの実力を見誤っていた点に関しては深く反省しているが、少なくとも自分たちはゴールドランク相当の実力を有しているという自負があった。


 さすがに、ブロンズランクまで降格するという屈辱に耐えることはできない。


 いつかロロにもう一度出会うことができる日まで、優秀なプラチナランクの冒険者でなければいけないのだ。


 それが最低限の罪滅ぼしというものである。


「そう……だね。エリィの言う通りよ。私が間違ってた」


「ミラ……!」


「私たちだって……優秀な冒険者よ。みんなが力を合わせたからこそ、プラチナランクにまで昇格することができなの。それに間違いはないわ。……止めてごめんね、エリィ。私、もう迷わない」


 二人は固く手を握り合った。


「それでは、明日の早朝にギルドへ来てください。そこで、いくつかのパーティで編成を組み、ミルヴァへ向けて出発します」

 

 こうして、三人はミルヴァ奪還に参加することになった。

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