50話 俺がクレイグだぜ!
「あなた達にギルドから呼び出しがかかっています。ここを出たら冒険者ギルドへ向かってください」
白衣を着た医院の女性が、エリィとミラにそう告げる。
「それじゃあ私たちは……もうここから出ても良いんですか……?」
ミラは女性にそう問いかけた。
「はい、問題ありません」
女性は頷きながらそう答える。
「…………行くわよ」
エリィがミラの腕を掴んで言った。
こうして三人は医院を後にし、ギルドへ向かい始める。
その先頭に立っているのはクレイグだ。
快活に歩くクレイグとは裏腹に、ひどく憔悴し沈み切った様子のエリィとミラ。
目の下にはひどいくまが出来ていて、後をついて行くのがやっとといった様子だ。
「ロロ……会いたいよ……謝りたいよ……」
ミラは、とぼとぼと歩きながらうわ言のように呟く。
それに対し、エリィは何も言わずにうつむいた。
「行くぜ!」
そんな二人に対し元気にそう叫ぶクレイグ。
「何言ってるのクレイグ……?」
「だから、今ギルドに行こうとしてるんでしょ! あんたおかしいんじゃないの!?」
今朝からクレイグはずっとこんな調子だ。
エリィとミラは、そんなクレイグに苛立ち八つ当たりをする。
「わりいな!」
「ちゃんとしてよ……」
ミラはクレイグのことをにらみつけた。
「なんであたし、こんな奴と一緒にいんだろ」
深くため息をつくエリィ。
クレイグは、そんな二人の文句には耳をかさず、ギルドへ向かってずかずかと進んでいく。
やがて、一行はギルドの前までなんとかたどり着いた。
「行くぜ!」
クレイグは先頭に立って、ギルドの扉を勢いよく開ける。
「俺がクレイグだぜ!」
叫ぶような大声がギルド中に声が響き渡り、冒険者の視線が一斉にクレイグの方へ集中する。
あまりにも様子がおかしかったので、ギルドの中がざわつき始める。
「え、ええと、クレイグさん、ミラさん、エリィさんでよろしいですか?」
とうとう見かねた受付嬢が、ギルドの奥から三人へ向けて声をかけた。
「ああ、そうだな!」
クレイグは元気良く答える。
「こちらまでお越しください」
指示に従い、受付の前までやってくる三人。
受付嬢は、少しためらった後意を決してこう告げた。
「……えっと、それではさっそく用件を伝えさせてもらいます。――あなた達にはランクの再審査のための試験を受けてもらいたいのです」
「ああ、そうだな!」
「…………あれ? てっきり怒るかと思ったんですが……」
「わりいな!」
いつになく爽やかなクレイグ。受付嬢は頭でも打ったのだろうかと首を傾げた。
「お二方もそれでよろしいですか……?」
そのまま、エリィとミラにも問いかける受付嬢。
「………………」
「ロロに……会いたい……」
しかし、二人とも放心状態でまるで話を聞いていなかった。
「あ、あのー……」
その時、突然エリィがミラに掴みかかった。
「あんた馬鹿じゃないの! ロロはもう死んだのよ! あたし達が見殺しにしたのよッ!」
エリィの目は怒りに満ちている。
「違う! そんなはずない! ロロはまだ生きてるって、私にはわかるの!」
ミラは涙を流しながら叫んだ。
「ふざけんじゃないわよ! あんた頭おかしいんじゃないの!?」
「ふざけてるのはエリィの方よ! ロロが死ぬはずないでしょう!?」
顔を真っ赤にして取っ組み合う二人。
両者互いに一歩も譲らない。
「あんたも黙ってないで何か言ったらどう!? 元はといえばあんたのせいでこんなことになったのよッ!」
ミラには話が通じないことを悟ったエリィは、クレイグの方へ詰め寄った。
「ロロの気持ちをさんざん踏みにじっておいて何とも思わないのクレイグ!?」
ミラも負けじとクレイグへ詰め寄る。その目つきには侮蔑の念がこもっていた。
「ああ、そうだな!」
それに対し、クレイグは爽やかに答える。
「はぁ!?」「…………っ」
あたかも他人事であるかのような態度をとるクレイグに、あきれ果てるエリィ、絶句するミラ。
「わりいな! 俺がクレイグだぜ!」
「意味わかんないわよ!」
エリィはクレイグの顔を思いっきり叩いた。乾いた音が鳴り響く。
「わりいな!」
クレイグは痛そうに頬をさすりながら謝罪する。
「ふざけないでっ!」
今度はミラが反対側の頬を叩く。
クレイグの両頬に手形が残った。
「あの……ロロさんが死んだって……どういう……」
三人の会話を聞いていた受付嬢が、ひどく動揺した様子で問いかける。
「さっきも言ったでしょう! ロロはあたし達が見殺しにしたのよッ! 泣いて助けを求めるロロを私たちが迷宮に置き去りにしたのッ!」
エリィは叫んだ。
「そん……な……」
唐突に伝えられた衝撃の事実に、受付嬢は放心する。
「…………少々……お待ちください……」」
受付嬢はそう言ってゆっくりと立ち上がると、ふらついた足取りでギルドの奥へ引っ込んだ。
「もういやっ!」
頭を抱えてその場に座り込むミラに対し、エリィは心底呆れたような顔をする。
しばらくして、先ほどの受付嬢とは別の人間が三人の前に姿を現して言った。
「……では、まずあなた達をシルバーランクへ降格します」
「…………え」
エリィとミラは、驚愕し目を大きく見開いた。
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