44話 けんか
「なあ……ガキども」
クレイグは顔を上げて、目の前の二人に呼びかける。
「どうしましたか? もしかして、やっと協力してくれる気になりましたか!?」
「……やりましたね、パメラ」
手を取り合って喜ぶ二人。
その姿に、クレイグはいら立ちを覚えた。
「わたしたちにかかればこんなものです!」
「ぼくたちの勝利です……」
――ぶん殴りてぇ。
拳を固く握りしめてそんな気持ちを抑え、極力優しい顔で話を続けた。
「ああ、協力してやるよ。だが、その前にひとつ俺の質問に答えて欲しい」
「質問するのはわたしたちの方ですが、まあいいでしょう!」
「……答えられる範囲で答えます」
パメラとノエルは、少し
「てめぇら、そのお兄さまとやらのことは好きか?」
「もちろんです!」
「当たり前です……っ!」
体を前のめりにし、目を輝かせ、若干食い気味にそう答えるパメラとノエル。
「お、おう」
その様子にどこか狂気じみたものを感じ取り、クレイグは思わずたじろいだ。
「そ、それじゃあ、当然お兄さまに褒められてえよな?」
「そうですね! わたしたちはお兄さまが喜ぶことならなんだってやります!」
「……言うまでもないです……ぐもんです……」
「いいもんやるからちょっとこっち来な」
鉄格子から手を出し、再び手招きするクレイグ。
「――――ノエル」
一歩踏み出そうとして、ノエルの方を見るパメラ。
「……よく踏みとどまりましたね……確かに、左手に何か持っているようですが、どう考えてもわなです」
「ちげえ、お兄さまとやらがさっき何か落としてったんだよ。そいつをやる」
「そうなんですか? ありがとうございます!」
ノエルは、再びクレイグに近づこうとするパメラの白衣を引っ張る。
「こんなのに引っかかっちゃだめですパメラ……前言撤回です……」
こうして、クレイグの考えていた作戦の一つ目、油断して牢屋に近づいたパメラを締め上げて人質に取り、ノエルに鍵を開けさせようという目論見は失敗に終わった。
「そっちのガキはだまってろ! クソがッ! 死ね!」
「あうぅ…………」
罵倒されることに慣れていないノエルは、再び縮こまる。
「ノ、ノエルになんてこと言うんですか! 最低です! 人でなし! ばか!」
「――チッ! 同じようなことばかり言いやがって。てめぇらと話してると無駄にイラついて疲れるぜ」
「もういいです! お兄さまには、ばかすぎてお話にならないと伝えます!」
「…………きょくどの興奮じょうたいにつき対話不可能と伝えます」
「黙れこのクソガキが!」
「子ども相手に本気で怒鳴って、恥ずかしくないんですか!?」
「……お、お願いですから、パメラが大人になってあげてください……ぼくは大丈夫です」
ノエルは、顔を真っ赤にして怒るパメラをなだめた。
子ども相手に下に見られたクレイグは、尊厳を傷つけられ、より一層怒りを強める。
「そ、それもそうですね。少し取り乱しました」
「……お兄さまのもとへ戻りましょう」
「――おいおい、逃げるのか?」
「もうあなたの相手はしません!」
ぷい、とそっぽを向くパメラ。
「そこで静かにしていてください……」
ノエルは、クレイグのことをたしなめるように言った。
「………………あああっ! がああああああああ!」
「な、なんですか急に……?」
唐突にその場にうずくまり、叫び声をあげ始めるクレイグ。
「い、痛い! 体が痛い! 頼むっ! 助けてくれぇっ!」
「さすがに三回目はだまされません!」
「……みじめですね」
パメラとノエルは呆れたようにそう吐き捨てた。
「うううううぅうぅっ!」
ぽたぽたと、血が地面へ零れ落ちる。
「えっと、ノエル?」
「……こ、こういうのは予想外です」
パメラとノエルは、困ったように互いに顔を見合わせた。
「俺はっ! お兄さまとやらのっ、大切な調査対象だろぉがああああああああ!」
クレイグは突然のことに困惑する二人を怒鳴りつける。
「……え、ええと、とにかく、お兄さまを――」
「がぁっ!」
気が付くと、クレイグの口には鮮血がべっとりと付着していた。
「お兄さまに……失望されてぇのかよおおおおおおおお!」
「きゃあ! わ、わたしが治療をします!」
パメラ慌てて牢屋の鍵を取り出し、ノエルにそう告げる。
「待ってください、中にはぼくが入ります。パメラは大急ぎでお兄さまを」
「で、でも!」
「……もともと、非常時の役割分担はそう決めてあったはずです」
「わ、わかりました!」
ノエルはパメラと場所を交代し、そして――
ガシャン。
――クレイグがいる牢屋の鍵を開けた。
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