41話 さんじょう
驚き言葉を失う僕。
アンリエッタさんはさらに付け足す。
「もちろん、ノルンちゃんとシフくんも一緒よ」
「どうして……僕なんかと……?」
「言ったでしょう、私はあなたの能力を高く評価しているの」
「でも、僕はアンリエッタさんと今日初めて会ったはずだよ……?」
「厳密に言うと違うのだけれど……そうね」
アンリエッタさんは少しむなしそうな表情をした後、続ける。
「私がパーティを組んだのはあなたとではなくて、クレイグくんたちとなの」
「――――!」
僕は驚き目を見開く。まさか、この場でクレイグの名前を耳にするとは思わなかった。
「お友達に酷いことを言ってしまうのは心苦しいけれど、はっきり言って彼らの実力は到底プラチナランクに足るものではなかった」
「あ…………う……」
思わずアンリエッタさんから目をそらす。
僕はどんな気持ちでこの話を聞けばよいのかわからない。
「私はどうして彼らがプラチナランクまで昇格することができたのか不思議に思った。――けれどすぐにピンときたわ。……ロロくん、あなたが彼らの実力を補ってあげていたということに」
「か、過大評価です……」
「いいえ、そんなことはないと私は思うの。とにかく、一度私とパーティを組んでみる気はないかしら? そうすれば、過大評価かどうかはすぐにわかるでしょう? それに、私もプラチナランクだから、邪魔にはならないと思うのだけれど……」
一般的に、迷宮の通路の広さ等から考慮して、まとまって行動するパーティの人数は四、五人程度が最適とされる。
おまけにプラチナランクと一緒に組めるとなれば、もっと報酬額の高い依頼に手を出すこともできていいことづくめだ。
僕にはこの申し出を断る理由がない。
ノルンとシフに意見を求めようとしたが、二人とも厨房から漂ってくる料理の匂いに夢中でろくに話を聞いていない。
「……プラチナランクの人とパーティを組めるのなら、僕としてはぜひともそうしたい……です。たぶん、すぐ僕に失望すると思うけど……」
嫌な記憶が蘇ってくる。
「雑用すらできねぇのかお前は!」「はぁ……まじで能無し」「なんでロロは頑張れないの?」「これで最後だからって手ぇ抜いてんじゃねえのか?」「早くちゃんと地図書けよ」「とにかく謝りなよ……ロロ」
僕は思わず頭を抱えた。
「ごめん……なさい……っ!」
「……ロロくん、あなたがそんな風では、信じて付いてきてくれているノルンちゃんやシフくんに失礼でしょう?」
「あ……」
アンリエッタさんの言葉ではっとし、現実へ引き戻される。
「アンリエッタさんの言う通りだよ、ロロ!」
「そうじゃぞー、ロロ。お主は余を見習ってもっと自信を持つべきじゃ」
確かにその通りなのかもしれない。僕は少しだけ反省した。
だけど……今までずっと役立たずだと言われ続けてきたし、失敗もしてきた。
今更自分に自信を持てと言われても難しい……。
「わかったよ……アンリエッタさん」
「それじゃあ……決まりね」
「よろしく……お願いします」
「うふふ、よろしくね、ロロくん。それから、ノルンちゃんとシフくんも」
こうして、僕とノルン、シフ、アンリエッタさんの四人パーティが結成された。
ちょうど、パーティを追放される前と同じ人数である。
まさか、こんなにも早く集まると思わなかった。
以前よりも、順調に物事が進んでいるのだ。あまりくよくよしてはいられない。
気合を入れ直したその時。
「いやああああああああああああああああッ!」
突然店の外で悲鳴が上がった。
店内に居た人たちはざわつき、皆店の外へ飛び出していく。
「――何事かしら。私、少し見に行ってくるわ」
先ほどとは打って変わって、真剣な顔つきになって立ち上がるアンリエッタさん。
「あ、待って―ー僕も行く」
僕はその後に続く。
店の外へ出ると、近くにある広場の中央に人だかりができ始めていた。
「何があったの?」
「敵襲か?」
後から出てきたノルンとシフが僕に問いかける。
「わからないけど……あっちに人が集まってる」
広場の中央にあるのは噴水だ。
「なに……あれ……」
ノルンは僕の手を掴んだ。
「……あらあら」
噴水から噴き出す水が真っ赤に染まっている。
僕たちはゆっくりとそちらへ近づいていく。
人の間をぬって一番前までやってきて、ようやく赤い水の正体を理解した。
――血だ。
「…………っ!」
ノルンは両手で口を覆い、呻き声をもらす。
「なんと……まあ」
シフは呆然と立ち尽くし、その光景をただ眺める。
「――あなた、すぐに医院の人たちを呼んできてちょうだい!」
そしてアンリエッタさんは、近くに居た冒険者達数人にそう命じた。
噴水に浸かっていたのは、人だった。装備からしておそらく皆、それなりに腕の立つ冒険者だと思われる。
しかし、その手足はあり得ない方向にねじ曲げられていたり、脇腹を抉られていたり、手足を欠損したりしていて、誰一人として意識のある者はいなかった。
彼らの血が噴水を赤く染め、さらに噴水周辺に流れ出している。
この様子では、生きているのかどうかすら怪しい。
「ロ……ロ……!」
ノルンが僕の腕を引っ張り、噴水を指さす。
「そん……な……」
僕は、驚きのあまり目を見開いた。
それは、その光景があまりにも凄惨だったからだというわけではない。
「シャーロット……さん……?」
その中に、ズタズタになったシャーロットさんの姿があったからである。
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