37話 シフについて
「ぐあぁっ!」
頭にダガーが突き刺さり、男は悲鳴を上げて武器を床に落とす。
そのまま額から血を流して仰向けに倒れた。
「ノルン! シフを守って!」
僕は隣ににいるノルンに呼びかける。
「――うん!」
間髪入れずに元気のよい返事が返ってきた。
不意打ちで一人減らせたので、これで三対三。
シフを戦力に数えなければ三対二なので、若干不利だ。
しかし、どうやら僕の倒した男がリーダー格だったらしく、頭を失った一団は動揺している。
「ふ、ふざけるなよクソガキがあああああッ!」
その中の一人、槍を持った戦士が激高して僕に突進してきた。
しかし、その槍をノルンがメイスでたたき折る。
「ロロは後ろの二人をお願い!」
ここはノルンに任せて良さそうだ。
僕は槍使いの脇を通り抜け、残っている二人へ急接近する。
弓使いは僕へ向かって素早く矢を放ち、もう一人は魔法を詠唱し氷の塊を飛ばしてきた。
――しかし、それらはどちらも、僕の目前で見えない壁に弾かれる。
「お、脅かしおって……負けたら許さんぞぉっ!」
どうやら、半泣きのシフが魔法で援護をしてくれたらしい。
「ありがとう」
僕は、倒れている男の頭からダガ―を引き抜き、そのまま弓使いと魔術師へ投擲した。
「ぐぅっ!」「がぁッ!」
胸元にダガーが刺さっり、二人はもだえ苦しむ。
僕は二人に刺さったダガーを抜き取ると、そのまま両手で思いっきり押し倒した。
――バッシャーン!
大きな水しぶきが上がる。
二人はよろめいて、そのまま背後にあった泉へ転落したのだ。
「ノルン!」
背後を振り返ると、メイスを持ったノルンの前に槍使いが倒れている。
やっぱりノルンは強いなあ……。なるべく怒らせないようにしよ……。
相手が僕たちの姿を見て油断しきっていたらしく、思ったより早く決着をつけることができた。
だけど、まだ近くに仲間がいるかもしれない。
「逃げるよ! 二人とも!」
そう考えた僕は、ノルンとシフに呼びかける。
こうして僕たちは、シフを連れて大急ぎで精霊の森を後にした。
*
とりあえず、シフの記憶喪失の件は一旦置いておき、依頼で指定された品の納品を済ませる。
冒険者ギルドで受付の人から報酬をもらい、道中倒した魔物から取った毛皮や牙などを売り払うと、そこそこの金額になった。
とりあえず、一週間くらいは何もしなくても過ごせるだろうか。
闇ギルドの件も、一応報告しておいた。
どうやら、後で他の冒険者が精霊の森まで様子を見に行ってくれるらしい。
たぶん死んではいないと思うけど、死んでいたところで僕たちが罪に問われることはないので、なんの問題もない。
一通り必要な手続きを終えた僕たちは冒険者ギルドを後にし、広場の石段の上へ腰かけた。
「さてと……シフの今後についてだけど……」
「記憶喪失なら、医院に連れて行けばいいんじゃないかな?」
「……確かにそうだね」
ノルンの言う通り、まず行くべきなのは医院か……。
「いいん……いいんとは一体なんじゃ……?」
「とにかく、ついてきてよ」
こうして、僕たちはシフを連れて医院の前にやってくる。
「さ、中へ入ろうか」
「医者ではないか! 余はどこも悪くないぞ!」
しかし、シフが予想外の抵抗をする。
「だめだよ、ちゃんと見てもらわないと」
嫌がるシフを説得するノルン。
「いやじゃ! いやじゃああああああ!」
シフは必死に拒絶したが、僕と、そして主にノルンの怪力に負けて中へ連れ込まれた。
しかし、残念なことに、医院では記憶喪失の治療はしていないらしく、おまけに原因もわからなかった。
こうして、全て振り出しに戻り、僕たちは再び広場に戻ってくる。
「もう……余は何も信じんぞ……!」
すっかりいじけてしまったシフ。
「どうしよう……?」
ノルンは困ったように僕の方を見た。
「教会か孤児院に引き取ってもらう……とか? きっとその方が本人にとっても――」
「いやじゃ!」
僕の提案は、シフによって却下される。
「ど、どうして? 別にそんな悪いところじゃないよ……? 冒険者やるよりは安全だと思うし……」
「余は冒険者がしたい。……お願いじゃ、二人のそばに居させてはくれぬか……?」
シフは、同情を誘うような表情で僕たちに懇願してくる。
「シフ……どうしてそこまで……」
「それはのう」
「うん」
「二人とも優しくてちょろそうだからじゃ」
「………………」
「………………なんじゃ、その顔は?
「……………………………」
*
こうして、僕とノルンは、シフを連れて町にある教会までやって来た。
「いやじゃ! いやじゃああああああ!」
「ロロ……やっぱり少しかわいそうだよ……」
ノルンがシフの右肩をがっちりと抑え込みながら言った。
「でも、そうした方がシフ本人にとっても良いと思うし……とりあえず、中に入るだけ入ってみよう?」
「……そうだね、ロロ」
「いやじゃああああああ!」
教会の内部は薄暗かった。信者達が集まり、中央の魔法陣に向かって怪しげな呪文を唱えている。
「イア! イア!クトゥルフ、フタグン!」
僕とノルンは、信者達に気づかれる前にそっと扉を閉じた。
「……戻ろっか」
*
こうして、僕たちは更に再び広場に戻ってくる。
「……余は……そんなに邪魔か……?」
「別に……そういうことじゃないけど……」
「なら何故こんなことをする! ……なあ、お願いじゃ、言われたことはなんでもする。一緒にいさせてくれ……!」
「シフ……どうしてそこまで……」
なんかさっきも全く同じやりとりをした気がするが……気のせいだろうか。
「余が……余が頼れるのは……お主たちだけだからじゃ……」
「シフ…………」
そうか、シフが不安なんだ。
今のシフにとって、こうして話せる人間は僕とノルンだけ。
そう考えると、僕たちと離れることを嫌がるのもわからなくはない……かも?
――――ぐぅ。
その時、不意にノルンのお腹が鳴った。
ノルンは、恥ずかしそうに僕とシフから顔を背ける。
思えば、もうずっと何も食べていない。日も暮れかけてるし。
「とりあえず……何か食べようか」
「…………うん」
「賛成じゃ!」
とりあえず、今日は宿屋で夕食を取ることにした。
僕たち三人は、広場の近くにあった宿屋へ入る。
「いらっしゃい!」
とりあえずは、部屋の確保からだ。……二部屋でいいだろうか?
「ノルンはシフと一緒に寝なよ。女の子同士だしその方がいいでしょ?」
僕は二人の方を見て言った。
「何言ってるの……ロロ……?」
首を傾げるノルン。
あれ? 僕何も変なこと言ってないと思うけど……。
「余は男の子じゃぞ……確かに……余は並のおなごより可愛いが……」
シフは両手を頬に当て、顔を赤らめる。
…………え?
「ええええええええええええええ!?」
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