34話 精霊の森
僕とノルンは、精霊の森の中へ足を踏み入れる。
迷宮内部は生い茂る背の高い木々が、日の光をさえぎっているため、薄暗い。
しかし、視界の明るさは十分に確保することができる。
なぜなら、迷宮の内部に群生する植物の中には、魔力を吸収して様々な色に発光する種も存在しているからである。
至る所で、色とりどりの花やキノコが、赤や青、白や黄や紫色に発光しているのだ。
「わぁ…………」
ノルンはその幻想的な光景に目を奪われている。
「すごい……きれい……」
「迷宮の中には魔力が充満してるからね、きれいな場所が多いんだ」
もっとも、魔力が多いということはそれらを好む魔物がたくさん住み着いているということだけど。
しばらくの間周囲を見回していたノルンは、近くの茂みに紫色に光る花が咲いていることに気付き、手を伸ばそうとする。
「それは触っちゃダメ! 入口付近は毒草が多いんだ。それに植物の姿に魔物が擬態してる場合だってある。だから、きれいな花を見つけてもあまり近づかないほうが良いよ」
「そうなんだ……」
ノルンは少し残念そうにした。
こればっかりは仕方がない。
「それじゃあ、薬草はどこに生えてるの?」
「この迷宮の中にある泉の周辺だね」
「泉?」
「通称、精霊の泉。この森の中に点在する、とても濃い液状の魔力で満たされた場所だよ。泉は互いに繋がっていて、中に飛び込んだ瞬間、別の泉へ飛ばされちゃうんだ」
ちなみに、精霊の森での死因第一位は「誤って泉の中に落ちて別の場所へ飛ばされ、そのまま帰り道が分からなくなってそのまま野垂れ死に」である。
「だから絶対に落ちちゃだめだよ。ふりじゃないからね!」
「わかった……」
しかし、裏を返せばそれ以外は直接死に至るような危険はないということだ。毒草もせいぜい手がかぶれるくらいだし、魔物は比較的弱いし。
そんなわけで、精霊の森は駆け出し冒険者の絶好の狩場となっている。
「それじゃあ、一番近くの泉まで行こうか」
「うん」
僕たちは、地図を頼りに迷宮の中を進み始めた。
*
「ちょっと待って」
それからしばらく歩いたところで、僕はノルンを制止した。
茂みの奥にワイルドボアを発見したからである。
「見てノルン、あれがワイルドボアだよ。突進してくるから気を付け――」
僕が話している間に、ノルンはワイルドボアに突進し、メイスで殴り飛ばした。
木の幹に叩きつけられ、血を流して動かなくなるワイルドボア。
ノルンは呆気にとられる僕の方に振り返って言った。
「昔よくこうして食べてた」
「ひ、ひぇ……」
ドワーフ怖い……。
一切躊躇のない動き、的確な攻撃、そして馬鹿力。
おそらくノルンは将来優秀な
「あ、ありがとうノルン。おかげで手間が省けたよ……」
僕はワイルドボアを手早く解体し、牙と肉の塊、そして毛皮を手に入れた。それらを布で包んで背嚢に入れる。
解体している間、ノルンは一歩離れた場所に居た。本人曰く、中身を見るのは嫌らしい。
だめな基準がわからない……。
とにかく、こうして依頼の一つ目を達成することができた。この調子なら、思ったより早く帰ることができそうだ。
「終わったよノルン。それじゃ、先に進もうか」
「うん」
それからも、ノルンは僕が見つけた魔物を先手必勝で叩き潰していった。僕はその後、売れそうな部位を切り落として回収していく。
唯一、スライムだけ柔らかすぎて叩き潰せなかったが、それは僕が処理した。シャーロットさんから貰ったミスリル製のダガーはすごい切れ味で、魔力も通りやすい。
そのおかげで、以前より
僕、これを家宝にして一生大切にするよ……!
家ないけど。
*
「ロロ! あれ……!」
それからしばらくして、不意にノルンが前方を指さす。
その先には水面が眩く光る泉が存在していた。
「あれが精霊の泉だね。迷わないで来れてよかった」
採取するものは青い花――ルナスを五つと、赤い木の実――ノナノラを三つ、それから白いきのこ――テオカトルを十個だ。僕は、それらの実物を一つずつ見つけて、ノルンに見せる。
「名前は覚えなくていいから、この三つと同じものを探してほしいんだ」
「わかった。……手分けするの?」
「うん。だけど、お互い見える位置でね。もし魔物に襲われた場合は大声で僕を呼ぶんだ。いい?」
「りょうかい!」
ノルンはそう言ってすぐ、茂みをかき分けて薬草を探し始めた。
どうやら、この場所がかなり気に入っているらしい。
とても楽しそうだ。
あまり緊張感がなさすぎるのもよくないけど、ずっと気を張り詰めていても、かえって疲れてしまい探索に支障が出る。
ここは特に何も言わずにそっとしておこう。
――さて、僕もお目当ての薬草を探すとしようか。できれば、自分の薬の調合用にたくさん欲しい。
僕は両手をついて四つん這いになり、地面に生えている薬草を探し始めた。
「あった……お、ここにも、こっちにも……!」
しばらくそうしていると、それなりの量が集まったので僕はそれらの薬草をまとめて袋へ入れる。
「……ふぅ、疲れた」
「ロロ!」
僕が一息ついたその時、後ろからノルンの呼ぶ声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます