24話 VSトロール
ミラは、己の愚かさを悔いた。
ロロがパーティのために人一倍頑張っていることはわかっていたはずなのに、いつしかそれが当たり前になり、更にロロへの負担を強いる。
それは人として最低な行為だ。
ロロに寄り添っていたつもりだったが、実際のところはロロのことを何も考えていなかったのである。
アンリエッタの指摘によって、それを嫌というほど思い知らされた。
「あぁ…………」
ミラの体はふわりと宙を舞い、勢いよく壁に叩きつけられる。
「うぐぅっ!」
全身が痛い。魔法での治療が追いつかない。
目の前には、松明を持ったトロールがいる。
ミラは皆とはぐれた後、通路の中でこいつと遭遇してしまったのである。
「たす……けて……っ!」
一人でこんな奴を相手にして勝てるはずがない。ミラは、自分の何倍もある大きさのトロールを相手に、完全に戦意を喪失していた。
トロールはどうしても苦手だ。見ただけで体が震えてしまう。
*
昔、まだ十にも満たない子どもだった頃、ミラは勉強が嫌でこっそり孤児院を抜け出して近くの立ち入りを禁じられている森へ遊びに行った。
その結果、トロールに襲われてしまったのである。
ミラは必死になって逃げたが、子どもの足ではすぐに追いつかれてしまう。
殺されそうになり、泣き叫びながら助けを求めたその時、ロロが真っ先にミラの居場所を探し当てて駆けつけて来てくれたのだ。
ロロは自分よりはるかに大きいトロール相手に機転を利かせて、ミラのことを救い出した。
しかし、その時ミラをかばい、ロロは左目に一生治らない傷を負ってしまったのである。
だからロロの左目はほとんど見えていなかった。
*
「ーーーーっ!」
突然昔のことを思い出したミラの頬を、涙が伝う。
「ロロ…………っ!」
ミラが助けを求めた時、ロロはその身を呈して助けてくれたというのに、ロロに助けを求められた時、ミラはそれを拒絶した。
その事実が、今になってミラの心を
「私……なんであんなひどいこと……っ!」
しかし、今更後悔してももう遅い。
トロールが、血だらけで壁にもたれかかるミラの前で屈み込む。
次の瞬間、その大きな手でミラの髪の毛を掴んで引き倒すと、背中に松明を押し当てた。
「いやあああああああああっ!」
背中を焼かれ、悲鳴を上げるミラ。
しかし、いくら泣こうが喚こうが助けはこない。
全てはミラが招いた結果だ。
もがき苦しみ、伸ばした右腕が踏み潰され、へし折られる。
「ああああああああああああっ!」
それは、後衛の回復要因として守られてきたミラが、今まで感じたことのないような激痛だった。
体をぴくぴくと痙攣させ、気絶しかけたその時、突如として背中の松明が離される。
「はぁ……はぁ……ごほっ! ごほっ! ……うぅ?」
次の瞬間、トロールが倒れ大きな地響きがした。
訳がわからず、顔を上げるミラ。
すると目の前には、見捨てたはずのロロが立っていた。
「ロ……ロ……」
ミラの呼びかけに対し、ロロは何も答えない。振り向きもしない。
「ロロ……ロロ!」
それでもミラは、満身創痍の体を引きずって、ロロの足へしがみついた。
「ごめんなさい……ごめんなさいっ! 私が間違ってた! たくさん酷いこと言ってごめんなさいっ! 能力が足りてないなんて言ってごめんなさいっ! いつも私のこと助けてくれるのはロロだったのにっ! 本当の役立たずは私の方だったの! お願い……許して……!」
ロロは何も答えない。
「私……本当の気持ちに気づいたの……! 私……ロロのことが好き! だからお願い……一緒にここから出て……もう一度……やり直しましょ……? クレイグも、エリィも、私が説得するから! もうロロのこと追放なんてさせないからぁっ!」
ロロはーーゆっくりと振り向く。
「うぅぅ、あぁぁ…………」
「そん……な……」
しかし、それはすでに死んでいた。瞳に生気は宿っておらず、体の至るところが崩れている。
ミラがロロだと思って話しかけていたものは、ロロの姿をしたグールだったのである。
「い……や…………っ!」
その時、ミラは自分がロロのことを見捨てたせいで、ロロがこの迷宮で命を落としてグールになってしまったことを理解した。
グールは、憎悪のこもった呻き声を上げながらミラを見下している。
どうやら、許してくれないらしい。
ミラはグールに体を掴まれ、そのままずるずるとどこかへ連れて行かれた。
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