22話 戦士クレイグ
気がつくと、クレイグは薄暗い通路に一人で立っていた。
「…………? ここはどこだ……?」
背後には真っ暗な闇が広がり、正面の突き当たりからは明かりが漏れている。
アンリエッタに対する怒りはおさまらないが、こうなってしまっては仕方がない。
クレイグは、どうしてこうなったのかわからないまま、明かりが見える方向へ向かって真っ直ぐな通路を歩き始めた。
「くそっ、あの女……合流したらぶっ飛ばしてやる……!」
腹立たしげにそう呟きながら、壁に拳を突き立てるクレイグ。
少し進み、突き当たりを曲がった先は、広間のようになっていた。
その中央では、ゴブリンが火を取り囲んで眠っている。
クレイグがゆっくりと広間へ足を踏み出すと、その音を聞いたゴブリンの一体が目覚めて叫んだ。
「グギャギャッ!」
「チッ」
一斉に起き上がるゴブリン達。クレイグは、青筋を立てながら武器を構える。
素早く棍棒を手に取り、その周りを取り囲んでいくゴブリン。はっきりとはわからないが、その数は十数匹。いくら相手がゴブリンであったとしても、撤退した方がいい数である。
しかし、クレイグは逃げようとしなかった。
「雑魚が……何匹いようと変わらねえんだよッ!」
クレイグは素早く正面のゴブリンの懐へ潜り込み、横へ切り払う。
「ギャッ」
剣に吹き飛ばされ、断末魔を上げて絶命するゴブリン。
その様子を見て怒った仲間たちが、雄叫びを上げながらクレイグへ飛びかかる。
「ーーっ!」
クレイグは通路へ飛び退いてゴブリンの攻撃をかわすが、反応が遅れたせいで体の数カ所に傷をつくってしまう。
体が思うように動かない。
「ーーきっと、ロロって子があなた達の実力不足を全部カバーしていたのね!」
ふと、アンリエッタに言われた言葉が脳裏をよぎる。
「そんなこと……あるわけねーだろッ!」
必死に否定し、自身を鼓舞するクレイグ。
ゴブリン達は通路を取り囲み、こちらの様子をうかがっている。
クレイグが武器を構え直したその時、何かが彼の腕をかすめた。
「…………あ?」
思わず、一瞬だけ振り返って確認すると、燃えている矢が背後の壁に当たり、床に落ちている。
ゴブリンが弓を使ったのだ。
「くそっ! あいつら……あんなもんまで持ってやがるのか……!」
棍棒を持ったゴブリン達の背後に、弓を持った持ったゴブリン達。
まるで冒険者が前衛と後衛に分かれるかのように、秩序立った戦列を組んでいた。
「嘘……だろ……」
矢がクレイグ目掛けて一斉に引き放たれる。
「ぐあああああああッ!」
全身に矢を受け膝をついたクレイグに、棍棒を持ったゴブリンたちが飛びかかり袋叩きにした。
「やめろやめろやめろおおおおおおッ!」
無造作に剣を振り回して必死に抵抗するが、多勢に無勢。
激痛の中、頭を殴打され、クレイグは気を失った。
*
全身が痛い。手足を動かそうにも、何かに縛られていて上手くいかない。
「ーーーーーーあ?」
次に目覚めた時、クレイグは広間の中央で
目の前には司祭のような服を着たゴブリン。その背後には殺気だったゴブリン達の群れ。
「ふざけたかっこ……しやがって……」
「口を慎め」
「は…………?」
クレイグは驚愕する。目の前にいるゴブリンの司祭が、理知的な口調で人間の言葉を話したからだ。
「お前は、外から来た人間か?」
「何……言ってやがる……」
「答えろ!」
司祭は腹立たしげに、背後のゴブリンに合図をする。
「………………!」
しばらくして、大剣を手に持った巨大なゴブリンーーホブゴブリンが二体、クレイグの両脇へやってくる。
「やれ」
その言葉と共に、ホブゴブリン達はクレイグの腕を持ち、力に任せて捻った。
「がああああああああああッ!」
両腕がひしゃげる痛みに耐えきれず、絶叫するクレイグ。
「答えろ、何が目的でここへ来た?」
「迷宮の‥…調査だ……」
「初めから素直に答えろ」
司祭がそう言いながら、クレイグの腕に手をかざすと、折れたはずの腕は元どおりになった。
なんと、ゴブリンが治癒魔法を使ったのである。
「なんて……でたらめな野郎だ……」
それからも、クレイグは尋問を受け続けた。司祭は迷宮の外の世界について知りたがっているようである。
問いかけに素直に答えれば何もされず、少しでも反抗的な態度をとれば、手足を折られ、歯を抜かれて、目玉を潰され、耳を切り落とされた。
そして、その度に司祭の治癒魔法で、全て元どおりにされる。
何度も苦痛を受け続けたクレイグは、すっかり反抗心を失い、素直に質問を答えるようになっていた。
「お前の他に冒険者が三人か。どうやらここもあまり安全ではないらしい。…………さて、お前から聞きたいこともなくなった。どうしてくれようか」
「た、頼む、これ以上手を出すつもりはない、見逃してくれ!」
必死に懇願するクレイグ。
「私はそれでも構わないが……」
司祭は、背後の殺気だったゴブリンを一瞥して続けた。
「仲間を殺された我が同胞たちは、お前を痛めつけないと腹の虫が治らないらしい」
「い、嫌だ、死にたくない!」
「そうだな……君にはこの世界について色々と教えて貰った恩もあることだし……こうしようか」
「見逃して……くれるのか……?」
クレイグに近づき、何かの魔法をかける司祭。
「君に再生の魔法をかけた。これで、当分の間君の体はいくら傷つけられても再生され続ける」
「…………?」
「というわけだから、君は我が同胞達の気が晴れるまで、そこで大人しく痛めつけられてくれ。皆の気が晴れれば、君を解放しよう」
「は……?」
司祭は振り返り、ゴブリンの群れの中に姿を消す。
それからは地獄だった。
尖った棍棒で何度も殴られ、腹を捌かれ、自分の体がどこからどこまでなのか区別がつかなくなるほど痛めつけられてから、魔法で全て元に戻る。
それの繰り返しだ。
「があああああああッ! やべろやねろやべろおおおおおおおッ!」
絶叫し、もがくクレイグを見て笑うゴブリン達。
雑魚と見下していた魔物に好き勝手拷問され続けたクレイグは、精神的にも肉体的にもずたずたに成り果てる。
「がはっ、ごぼぉッ!」
血の塊を吐き出してうなだれるクレイグ。
やがて、気が済んだのかゴブリンたちが離れていく。
「はぁ……はぁ……」
完全に心を折られたクレイグの前に、松明を持ったゴブリンが出てくる。
「やめろ……頼む……やめてくれ……!」
幸か不幸か、これから自分の身に起こることを察してしまうクレイグ。
このまま、死ぬこともできず全身を火に焼かれ続けるのだ。
「もういい、お願いだ……俺を……俺を殺してくれえええええええ!」
次の瞬間、クレイグの体に松明の火が着火する。
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