21話 パーティ崩壊
アンリエッタの発言を聞き、クレイグは声を荒げる。
「何言ってやがる! あの役立たずがそんなことできるわけないだろ!」
「時々あるのよね。あなたたちみたいなパーティ」
「……は?」
「仲の良い幼馴染同士でパーティを組むのはとても微笑ましいことだけれど、そのせいで他の冒険者と一緒に依頼をこなすことがほとんどなくなっちゃうの」
「だから何だって言うんだよ!」
クレイグはアンリエッタに詰め寄る。
「それってつまり、他の冒険者がどうやって迷宮を探索しているのか、ほとんど知ることができないってことでしょう? せいぜい、酒場で酔っぱらった先輩冒険者に教えてもらった話や、ギルドの受付さんから教えてもらった初歩的な心得くらいしか知識として蓄積されていない、なんてことになりがちなの」
「それの何が悪い! それでも俺たちはここまでやって来た!」
「もちろん、それでも上り詰めていくパーティだってあるわ。……だけどね、大抵はパーティの中での役割分担が曖昧になってしまうの。特に、優秀な子ほどそのしわ寄せが行きやすい。このパーティの場合はロロくんね」
その言葉に怒りを覚えたエリィが、甲高い声で怒鳴った。
「言ってる意味がわかんないわよ! あんな弱い奴が優秀なわけないでしょッ!」
「いい? エリィちゃん。基本がなっていないパーティほどメンバーの戦闘能力を重要視しがちだけれど、迷宮探索で本当に大切なのは魔物や罠なんかの危険を回避する能力と、
「わかんないわかんないっ!」
「あらあら、駄々をこねちゃだめよ。……話を戻すけれど、要するに実力が高い子ほど重要な仕事を一人で率先して頑張るものだから、パーティ内での実力が更に開いていく。けれど一緒に戦っている仲間からは、雑用ばかりで戦うことができない弱い奴って馬鹿にされちゃうの。実力がパーティー内で開きすぎて、その子のやっていることが理解できなくなっちゃうのよね。それで、いよいよ不満が溜まったパーティメンバーからその子が追放される」
「うそ……全部うそよそんなのッ!」
「あらあら、図星だったのかしら? とにかく落ち着いて?」
アンリエッタは優しく微笑みながらエリィをなだめた。
すっかり静かになってしまった三人を見回して、アンリエッタはさらに続けた。
「はっきり言うわよ。どうか落ち着いて聞いてちょうだいね? ――能力不足なのはロロくんではなくてあなた達のほう。あまつさえ、有能な人材を追い出してしまうなんて、あなた達は冒険者として失格よ?」
笑顔のアンリエッタから放たれた厳しい言葉が、三人にとげのように突き刺さる。
「ふざけるなあああああ!」
クレイグは激怒した。
「ちがう……ちがうちがうちがうっ!」
エリィは力なく座り込む。
「ぐすっ、うぅ、うううううううううううっ!」
そして、ミラはその場で泣き崩れた。
先ほどとはうって変わり、騒がしい。
「みんな静かにしてちょうだい? 迷宮の中でそんな騒いだら、魔物に見つかってしまうでしょう?」
かつてロロに言い放った言葉がそのまま返ってきたミラは、唇を強く噛みしめてうずくまる。
「あ、あとこの際だからついでに言ってしまうけれど、あなた達の戦闘能力もそれほど高くないわ。きっと、今まではロロくんの
その一言によって、三人のプラチナランク冒険者としてのプライドはズタズタに引き裂かれた。
「……そういうわけだから、これ以上の探索は不可能ね。もう帰りましょうか!」
アンリエッタはニコニコしながらそう呼びかけるが、三人からの返答はない。
「あ、あらあら……もしかして私……言いすぎちゃったかしら……? ご、ごめんなさい……そんなつもりはなかったの……」
初めて笑顔を崩し、困った様子で謝るアンリエッタ。
「ふ、ふざけるんじゃないわよ! あんた、何様のつもりッ!」
エリィは立ち上がってアンリエッタの胸ぐらを掴んだ。
衝撃で、彼女の胸が揺れる。
「あ、あらいやだ、冷静になってエリィちゃん」
アンリエッタはその腕をたやすく引き離して言った。
圧倒的力量差を感じ、悔しさのあまりじだんだを踏むエリィ。
「馬鹿にするなああああああッ!」
すると今度は、激昂したクレイグが殴りかかってくる。
「さ、さすがにそれはだめよ?」
顔面目掛けて飛んできた拳を寸前でかわすアンリエッタ。
しかし、不幸にも逸れた拳が松明に当たってしまった。
松明はへし折られ、火が消える。
「ほ、本当にやめてちょうだい!? そんな乱暴されたら私もいい加減泣いてしまうわ……。今新しいのを点けるから待っていて。 ……ね?」
アンリエッタは慌てながら、暗がりの中で替えの松明を取り出して火を点けた。
「ほら、明るくなった……もうこんなこんなことをしてはだめよ? ……ってあれれ?」
気がつくと、彼女の周りには誰もいなかった。
「み、みんなー? クレイグくーん? エリィちゃーん? ミラちゃーん? ………………」
周囲をきょろきょろと見回しながら名前を呼んでみるが、いつまで経っても返事は返ってこない。
もし魔物に襲われたのであれば、叫び声が聞こえるはずだ。それに、自分の身だって無傷では済まなかっただろう。
「こ、これはもしかすると……」
困惑するアンリエッタだったが、ふとある考えが浮かんだ。
「みんな迷子になってしまったのかしら……?」
アンリエッタは少しずつ、自分が言い過ぎたことに責任を感じ始める。
「み、みんなー? おねがいだから返事をしてちょうだい……?」
彼女は半泣きになりながら、三人を探すために歩き始めた
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