20話 苦戦
迷宮『幻惑の石室』にたどり着いた一行は、クレイグを先頭にして内部へ踏み込む。
一階層は既に探索済みであるため、地図を頼りに迷うことなく進むことができた。そうして、とうとう二階層へ降りるための石段へたどり着く。
下は薄暗く視界が悪い。アンリエッタは、
「さて、そんじゃ行くか」
先頭に立ち、ゆっくりと階段を下りていくクレイグ。
「思ったより魔物が少ないわね。早く帰れそうでラッキーだわ」
エリィは緊張感なくそんなことを呟く。
「足手まといがいなくなったおかげだな」
階段を下り終わったクレイグが、振り返りながらそう言ったその時だった。
「危ないわ!」
「ぐぎゃぎゃぎゃあッ!」
アンリエッタが叫ぶと同時に、物陰から一体のゴブリンが飛び出し、クレイグにのしかかった。
「――しまった!」
クレイグは避けきることができず、押し倒される。
ゴブリンは雄たけびをあげると、手に持った棍棒を振り上げた。
しかし、それが振り下ろされるより早く心臓にクレイグの剣が突き立てられる。
ゴブリンはうめき声をあげると、そのまま倒れた。
「は、はは、まさかいきなり飛び出してくるとは思わなかったぜ。脅かしやがって」
「昔はあんなに苦戦してたのに、もうゴブリン相手なら楽勝ね! クレイグかっこいい!」
「へへ、ありがとよエリィ」
クレイグは、笑いながら立ち上がる。
「大丈夫クレイグ……? 怪我してるわ、じっとしてて」
ミラはクレイグに駆け寄り、腕の切り傷を治療する。
「大丈夫だ、死ぬこと以外かすり傷だぜ。ありがとな、ミラ」
「う、うん。実際かすり傷だけど……」
クレイグに礼を言われたミラは、はにかんだような笑顔で頷いた。
――プラチナにしては、探索の手際が悪い。
ますます三人に対する疑念を深めていくアンリエッタ。
手に持った松明の火を見つめながら考えを巡らせ、一つの仮説にたどり着く。
「……みんな天然なのかしら」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、何でもないわ。気を付けて進みましょう」
「お、そうだな」
ミラによる治療が終わり、一行はいよいよ二階層の探索を始める。
狭い通路ではあるが、さほど入り組んではおらず、容易に探索を終わらせることができるかと思われたが、予想に反して探索は難航した。
地図が不正確で頻繁に迷う上、仕掛けられた罠を見つけることができず、なかなか奥へ進めないのである。
そうこうしているうちに、魔物が次々と襲い掛かってくる。
「クソッ! 魔物が多すぎる! 今までこんなこと無かっただろ!」
クレイグは、襲い掛かってくるスライムと戦いながら叫んだ。
スライム倒しきることができず苦戦している間に、どんどんとコボルトやゴブリンといった低級な魔物が集まってくる。
「一体どうなってるわけ!?」
エリィは文句を言いながら、火炎魔法を放った。しかし、いくら魔物を焼き払っても魔物の数は減らない。魔法の使用が、更に魔物を呼び寄せているのだ。
「いやぁ!」
その時、小さな悲鳴が上がった。飛び掛かってきたスライムが、ミラを呑み込んだのだ。
「ミラ! く、クソッ! どきやがれ!」
クレイグは魔物に囲まれ、パーティから孤立する。
ミラはスライムの体内で、苦しそうに手足をじたばたさせた。
絶体絶命の状況に陥ったその時、アンリエッタの放った魔法の矢がスライムを消し飛ばした。
地面に解放され、激しくせき込むミラ。
アンリエッタは、そのまま正確な狙いで次々と魔物たちの急所を狙い打っていく。
魔物たちは悲鳴を上げる間すらなく、アンリエッタの放った矢に射殺された。
「あ、ありがとな、助かったぜ」
「まるでだめね。カッパーからやり直した方が良いんじゃないかしら?」
駆け寄ってきたクレイグに対し、アンリエッタは笑顔でそう言い放った。
言われた言葉の意味が一瞬で理解できなかったクレイグは、困惑したように立ち尽くす。
次第に意味を理解していき、クレイグは顔を怒りでゆがませた。
「て、てめぇ――!」
「しばらくあなた達の様子を見守っていたけれど、全然だめ。クレイグくんは斥候をしているはずなのにむやみやたらに歩いて魔物を呼び寄せる、エリィちゃんは魔力の制御ができてないうえに罠に対する警戒心もまったくない、ミラちゃんも二人と比べたらいくらかましだけれどそれでも実力はせいぜいアイアン程度。あなた達、一体どうしてそれでプラチナになれたのかしら?」
極めて優しい口調で笑顔を崩さず、それでいて心底不思議そうにそう問いかけるアンリエッタ。
「あ、あんた……喧嘩うってんの……ッ!?」
「いいえ、そんなことないわエリィちゃん」
「私たちが……弱い……?」
「厳しい言い方をするとそういうことになるわね、ミラちゃん。でも……本当にどうしてこんなことになってしまったのかしらね?」
口に手を当て考え込むアンリエッタ。
三人はただただ閉口する。
自分たちには確かに実力があると思ってきた。しかし、それが昨日であったばかりの実力のある冒険者によって否定されてしまったのである。
誰も発言しなくなったことによって、辺りは沈黙に包まれた。
「ああ、そうだわ!」
不意に、手を打つアンリエッタ。
「きっと、ロロって子があなた達の実力不足を全部カバーしていたのね!」
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