第二章 プラチナパーティ
18話 酒場にて
日が沈み、冒険者達で一杯になった町の酒場は大いに賑わっていた。
その一角、丸いテーブルを囲むようにして、エリィ、クレイグ、ミラの三人は座っている。
「厄介払いも済んで俺たちのパーティは晴れて全員
クレイグがニタニタと笑いながら、嬉しそうに言った。その右手に持っている杯には、なみなみと酒が注がれている。
「ったく、せいせいするわ」
エリィは酒を一気に飲み干して続ける。
「おかわり!」
「豪快な飲みっぷりだなぁ! ほら、ミラも飲め!」
「私は…………」
一瞬戸惑いの表情を見せたミラだったが、断りきることができず杯に口を付けた。
「ロロが‥‥ロロがちゃんとしないから……いけないのよ‥‥ロロが……!」
テーブルの上に杯を置き、ミラは呟く。
「なんだ? まだあいつのこと気にしてんのか? もう俺たちはあいつと無関係だ。どうなっていようと知ったこっちゃないぜ」
「でも…………」
――ロロの絶望した表情が頭から離れない。
結局あの後、時間こそ掛かったが、地図を頼りに迷宮の調査を済ませることができた。
こうして三人は、この町でも有数の実力者となったのである。
「ほんと、ムカつくよな。役立たずの癖に仲間ヅラしやがって。見捨ててせいせいしたぜ!」
「最後の間抜けな表情見た!? あれはほんと傑作だったわ!」
クレイグとエリィは、心底愉快そうに笑った。
「無能は黙って言われたことだけやってりゃいいのに出しゃばって口出ししてくるのもサイコーに腹立つしよォ!」
「ほんっと、ハーフリングってなんであんなキーキーしてるのかしら。あいつのせいで、ハーフリングが近くを通っただけでぶっ飛ばしてやりたくなるようになちゃったわ!」
「ちょ、ちょっと二人とも……! それ以上は……!」
酒が回り次第に悪口がエスカレートしていく二人を止めに入るミラ。しかし、二人はそれでも止まらない。
「ミラ、あんたもよかったわね。最後の『ロロには能力が足りてないの』ってやつが特にスッとしたわ。あれ言われた時のあいつの顔ったらないわね! ぎゃはははは!」
「けどよォ……どうせ見捨てるならもっと殴ってからにしておけばよかったな! それだけが心残りだぜ!」
ミラは少しだけうつむいた。いくらロロが無能だからとはいえ、そこまで言うのはかわいそうだ。
「あらあら、楽しそうね。いったい何のお話をしているのかしら?」
その時、一人の女性が三人の座るテーブルへ近づいてくる。長い金髪に尖った耳をした、美しいエルフの女性だ。
突然のことに言葉を失う三人を見て、女性は慌てて付け足す。
「いけないわ、いきなりこんなことを聞かれてもびっくりしてしまうわよね。私の名前はアンリエッタ。あなた達が仲間を募集しているという話を聞いているのだけれど……」
「あ、あぁ! いかにもその通りだぜ。ってことは、あんたが例の――あんまり美人だったもんで驚いたぜ。さすがエルフだな」
「あら、私なんてもうおばさんよ? お世辞はいらないわ……うふふ」
アンリエッタは、開いていたクレイグの向かい側にある椅子に座る。
「――ふん、あんたが新入り? あたしはエリィよ。よろしく」
エリィは腕を組みながら言った。
「私は……ミラっていいます」
それに続いて、おどおどしながら自己紹介をするミラ。
「そんでもって、俺がクレイグだ。三人ともランクはプラチナ。よろしくな」
「よろしくね、エリィちゃん、ミラちゃん、クレイグくん。私もあなた達と同じランクよ」
アンリエッタは笑顔のまま、胸元のペンダントを見せた。
「みんなはどういう関係なのかしら?」
「同じ孤児院出身の幼馴染だ。ま、同じ釜の飯を食った仲ってやつだな」
「あら、そうなの? 私一人だけ赤の他人で、しかも種族まで違うだなんて、上手くやっていけるか少し心配だわ」
その口ぶりとは裏腹に、アンリエッタは笑顔を絶やさない。
「安心しな、俺たちは実力主義だ。種族で差別したりなんかしねぇよ」
「そう? それならできるだけお役に立てるよう頑張るわ」
アンリエッタはテーブルの上に手を置き続ける。
「それじゃあ、明日の迷宮探索の話なのだけれど――」
「えー? 今から仕事の話すんのー? あたし嫌だわ」
アンリエッタの話を遮るようにしてエリィが言った。
「あらあら」
「悪いがこいつがこう言ってることだからその話は明日、出発する前にしてくれ」
「――ええ、わかったわ」
頷き立ち上がるアンリエッタ。
「おいおい、もう行っちまうのか?」
「ええ、生憎お酒は苦手なの。明日の朝、またここへ来るわ」
それだけ言い残して、アンリエッタは酒場の外へと出て行った。
外はすっかり夜で、空には月が輝いている。
「少し、心配ね」
アンリエッタはそう呟き、雑踏の中に姿を消した。
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