第6話 お父さんは……

 うーむ。来てしまった。

 昨日は眠れなかったよ。真猫さんの顔がちらついて。


 悲しいかな、こういう時は動物に癒されたいと思う。

 それで原因であるここに来てどうする。


 彼女の事は嫌いでもないし怖くもない。

 ただどうしていいかわからない……のに、ここに来る僕って何を考えているんだろう。


 そうっとドアを開け中を覗くと、お客は誰もない。

 思ったけど、初めて来た時も僕がいる間は誰もお客さんが来なかった。

 席も三つしかないし。

 これでやっていけるのだろうか?

 あ、でも、土日祝日しかやっていないなら儲ける為にやっているわけじゃないのか?

 じゃなんの為に? 趣味的な?

 でもなぁ。自分の子供を使って……。


 にゃ~。

 『入ったら』


 っは! いけない。

 覗きながら考え込んでいた。


 「お、おじゃまします」


 「いらっしゃいませ」


 あ、男の人だ。


 にゃ~。

 『彼がソウくん』


 「君か」


 もしかしてお父さん!?

 お父さんは、普通におじさんだ。


 にゃ~。

 『撫でて』


 僕がソファーに座ると、ぴょんと猫のひなたが僕の膝の上に乗っかった。そして催促。


 喉を撫でてやると、ごろごろと喉を鳴らす。

 昨日は、裸だとか思ってパニックになったけど、今日は大丈夫そうだ。

 うん。猫だ。

 あぁ癒される。

 ひなたが真猫さんだとか、もうどうでもいいかも。

 僕に害があるわけじゃないし。


 すり。

 足にすり寄って来た黒猫。


 そうだ。この猫も人間なんだよね、きっと。


 「えっと、この子の名前は?」


 にゃ~。

 『ゆうきだよ』


 黒猫が自分で答えた。

 どうやらひなたの声だけが聞こえるわけじゃないみたいだ。


 にゃ~。

 『私も』


 え?

 ぴょんと、ゆうきさんも僕の膝の上に乗っかった。


 まあ他に客もいないし、黒猫のゆうきの喉も撫でる。こちらもごろごろと喉を鳴らす。

 って、気がつけば、他の二匹の猫も僕の足にすりすりとしてすり寄って来た。


 なんだこの状態は。

 一匹はオスだから性別関係なく、モテてるのか……。

 猫にだけモテモテだ。いや中身は人間か?

 うん? どっちなんだろう? 本来の姿が猫?


 「あはは。猫パラダイスだね。昔を思い出すよ」


 昔? まさか!

 このお父さんだけ、普通の人間ですか?

 き、聞きたいけどそんな事聞けないよな。

 どこまで僕の話をしているかわからないし。


 結局、一時間以上いて一時間分だけで良いと言われ、お会計を済ませた。


 にゃ~。

 『ちょっと待ってて』


 猫のひなたがそう言って、店の奥へと走って行った。

 なんだろうと思ったら人の姿で現れた。


 わぁ。私服の真猫さんだ。

 茶色のチェニックにデニムパンツとラフな格好。凄く似合ってる。


 「ちょっと出かけて来るね」


 「え? いいの? お店は?」


 「どうせ、お客さんこないし」


 いや前に来ていただろう。僕以外に二人はいる。

 まあほとんど、来てないみたいだけど。


 「娘を宜しくな」


 ボソッと真猫さんのお父さんに囁かれた。


 そうだった。

 さっきのセリフは、彼女が猫だと知らないと出ない! 猫だと知ってますと言っているようなものだ。


 いやその前に、猫の姿で待っててと言われて待っている時点で、ばれているか。


 「し、失礼します」


 猫カフェからでて、ホッとする。

 まさか今日は、お父さんだなんて。


 「そうだ。お父さんって普段何やってるの?」


 平日は、違う仕事をしているから猫カフェは、土日祝日なんじゃないか?


 「会社員だよ」


 凄く普通だった。

 って、色々聞きたいけど、聞いてしまったら引き返せないような気がする。何がと問われてもわからないけど。


 でもこれは聞いていいかな?


 「どこ行くの?」


 まさか僕の家に着いて来るつもりでもないだろうし。

 コンビニに行くついでとか?


 「どこでもいいよ」


 「え?」


 「……デートしよ」


 僕の腕の服をちょいっと掴んで、またあの上目遣いだ。

 ううう。僕はこれに弱い。


 「いや、あの……どこでもと言われても知らないし」


 「あ、そっか! じゃ土手に行こう」


 土手? なぜにそんなとこ……。

 って、結構歩かされた。学校とは反対側に歩き30分ちょっと、大きな川があって草むらの土手がある。


 「ここ、よく来るの?」


 「うん。猫の姿で」


 猫の姿で来るんだ……。僕ら凄い会話してないか?


 うん? なんか視線を感じる。

 くるっと後ろを振り向くも誰も居ない。猫の事を話したから人の目が気になったのかな?


 それにしても、寒い!!


 「あのさ、ちょっと寒くない?」


 「うん。風があるからね」


 猫って寒がりかと思ったけど、僕より平気そう。


 「うひゃ」


 寒くて両腕を擦っていたら、真猫さんが右腕にピタッとくっついた。


 「あったかい……」


 「もう、君も寒いんじゃないか! か、帰ろう!」


 そう言いつつ僕が彼女を腕から離すと、ちょっとプクッとほっぺを膨らませる。

 結局真猫さんを家まで送ってから自分家に帰って、歩き疲れてへとへとになった。

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