EP02-2
旅立ちの朝、げっそりと気落ちした私とそれを見てやたらとご機嫌なアオイ、他三名を連れて通路を歩く。
その先には、地上に出る為の転送魔術法陣が設置された部屋がある。その陣に乗るだけで地上に自動的に飛ばされる優れモノだ。
「おめかしは終わっているようですね」
部屋に入ると、レンド・アバスティアがにこやかに待ち受けていた。その笑顔は、心の奥底から楽しそうだった。
「相変わらず……性格悪いですね、レンドさん?」
「いえいえ、褒められても何も出ませんよ」
あぁ、本当に良い性格している。
現在進行形で私が気落ちしている理由は、その服装にある。
思い出すのは、楽しそうに話すレンド、フルード、エギンの会話だ。
「元貴族の令嬢なら、それ相応の姿にしないといけませんねぇ?」
「やるなら徹底的に、だ。僕に任せてくれたまえ!」
「お、楽しそうなことしてんじゃねか。俺も混ぜろよ」
――殺してやろうか……。
思い出すだけで、今でも凶暴な感情に襲われる。
この三つの会話で、私の今の服装が生まれた。正確には、服装自体に文句は無いのだ。むしろ、恐ろしく派手で少しだけ色気があるこの服装は好みの部類に入る。単純にそれを着ているのが自分という事実が辛いだけで。
製作者のフラード曰く、服の名前は『漆黒の朱艶』と名付けられているらしい。
基本が黒のドレスで裏地が朱色。白のフリルを袖やスカートの先に縫い付けられてひらひら成分が多めで、動く度に見える裏地の朱色がポイントだとかなんとかうんぬんかんぬん。正面のスカート部分だけミニスカート丈になっており、そこから見えるのは脚は黒のガーターベルトで止められているハイソックスとゴシック靴。両腕は肘より少し上の部分まで黒の手袋で覆い、手首には銀色の腕輪が付いている。
うん、この衣装は本当に可愛いと思うし、戦闘を想定して動きやすいように随所が改良されているバトルドレスだ。けどね、元男がそれを着るとなるとな中々微妙な心持になるのは察してほしい。
ちなみに、アオイは目の色が同じという事もあって2つ上の姉の設定。なのにその服装はもっと簡易的で空色の肩を露出するタイプのワンピースにその上から白いケープを羽織っている。妾腹かつ庶子腹の生まれで、本妻から生まれたアリッサの方が立場は上という扱いを示すためにしているとかなんとか。貴族社会怖い。
アリッサの斜め右後ろに立っている、執事見習い兼護衛の設定のミコトはバトラー衣装。どうしても目立ってしまう両腕を隠すために分厚い黒の皮手袋をしている。
シフィはオーソドックスな黒のメイド姿で、ハイエルフ特有の金髪と清楚な感じがとてもマッチしている。
ぶっちゃけ、
だが、他人におちょくられるのは許せない……。それだけ、それだけの……はず……。
ぶつぶつぶつ。
自分を納得させる為に一人で呟いてる姿が不気味だったのか、
「さて、そろそろ良いかな? 時間が勿体ないし、さっさと転送魔術法陣に入ってくれるかい? それで地上に飛ばされるから、場所はランダムで」
空気が読めないのではなく、徹底して読まずに話をぶった切る笑顔の騎士。
ジト目を向けてみるが、やはり堪えることはなさそうだ。しかし、空気を悪くしているこの話題を切ってくれたことに感謝する。話を振ったのも眼の前の騎士なんだけどね!
「出る場所がランダム?」
「ええ、固定の場所を拠点としない我々とはいえ、現在の我々の位置情報がよそに流れるのは好ましくありません。事実、貴方方にはこの場所の位置を教えていないでしょう?」
「なるほど、ね」
――嘘くさい。
今日初めて、4人の意思が一つにまとまった。
だが、それも含めて今更だと全員が知っている。
対策をしていない、しない方がおかしい。
「グダグダ言っても仕方ない……。行きますか」
割り切ることに慣れてしまった。詰まる所、それは諦めることに馴れることにも繋がる。本来であればあまり良い傾向ではないのだが、それを使い分けるだけの技量を身につけるしかないだろう。
後ろを振り返り、自分についてくることを決めた4人を守る為に。
――アァ、ソウダ。ソノシュダンハトワナイ。
転送魔術法陣に一歩、私は足を踏み出した。
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