EP02-3



 5人が転送魔術法陣によって部屋から消えたのを確認し、レンドが息を吐く。思ったよりも重く、長い息が出たことにレンド自身も驚く。

 そっと、無意識に握っていた剣の柄から手を放す。

 


「手のひらに汗……ですか。この私が……。本当に手が付けられない化け物になりそうですね」


  

 最後の一瞬、彼女の雰囲気が空気が変わったのを見逃すほどレンドは鈍くない。

 アリッサの後ろについてた鬼人種の少女だけは気づいたようだが、雰囲気の揺らぎだけで表情や態度には出していなかった。その動揺を隠しきったはなに、レンドですら大したものだと感心する程のアリッサの僅かな、そして決定的な本質の変化。



 ――アレは……。



「よう、お嬢ちゃんたちは行ったか?」



「ええ、行きましたよ」



 エギンが、部屋の据え付けられている隠し扉から出てくる。

 転送を敵対組織による逆探知とそれによる突入を警戒して、部屋のそばに幾らかの戦闘要員を控えさせていたのだ。彼とその部隊の人間は、このまま一両日は配備したままだ。



「ふぃー、アレはやばかったな。俺もうっかり手を出しそうになったぜ」


 

 この場にいない玉輝たまきも気づいているはずだ。エギンがそう言いながら、先ほどのレンドと同じ様に重い息を吐く。

 


 リヴァイアサンの因子――毎回この言い方をしていると面倒だと言い出したフラードが略称『RV因子』と呼ぶようになった――と完全な融合を果した実験体のアリッサ。

 あれから観察している限りでは安定している。それは間違いないが、時折現れるあの変化がどうしようもなく不安を誘う。同時に、自分たちは異質な存在であることをたびたび知らしめて、戒めてくる。

 


「あれがただのホムンクルスではないのは分かりきっています。ですが、彼女が今後どうなるのか……」



「それを調べて考えるのが仕事の技術者共でもわからねぇんだ。暴れる側の俺達が考えてもしょうがねぇさ。問題は……さっきのお前さんが言っていた通り、いざという時に対処しきれるかどうかだろうよ」



 エギンの投げやりな、一種の現実逃避とも取れる発言に呆れるが、本質的には間違いではない。

 これから、あの5人がどうするのかは分からない。どうなるかも分からない。



「私たちも覚悟を決めておきましょう」



「だわな」



 2人の会話はここで終わり、それぞれの仕事に戻っていった。 

 3日後、大きな地震が局所的に発生して、その影響で地盤が崩落する事件が起きた。その下には……何もなかった。



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