EP02 部外者たちの旅立ち

EP02-1



 あの戦いから3年。

 何事もあり、何事も無かった日々が続いた。

 世界は変わらず、人同士が権力争いが続き、第二厄種リヴァイアサンが残した人類の敵、崩壊獣もまた変わらず在り続けた。

 何も、そう何も変わっていない。



 けれど私、アリッサ・ステイシアにとっては、やらなければならい事、学ばなければならない事を詰め込む日々。忙しくも充実した日々だったと胸を張って言える。

 私の周りの人も、幾らかの変化があった。



 まず言わなければならないのは三人。

 三人、で気づいて人は多いと思う。そう、あの日、檻の中で囚われていた子の事だ。



 一人目はあの三人の中で唯一の男の子。名前は、ミコト・アタラ君。

 種族的にはノーマルな人間で、赤髪に褐色肌の青年。異なる生物の遺伝子を組み込んだ場合の実験の被検体。右腕が有翼種の遺伝子の受けている為に羽毛を纏っており、左腕が竜種の遺伝子を受けて爬虫類の特徴的な鱗のような腕になっている。

 性格はぶっきらぼう? 照れ屋と言った方がいいだろうか。まぁ、いじり買いがあって可愛い男の子だ。



 二人目はシルフィーネ・ネルベ・クラウティスちゃん。

 ハイエルフの女性。年齢については聞かない方が良いよ。本気で殺されるから……。

 リヴァイアサンの因子を打たれた以外、遺伝子的な部分はいじられなかったようだが、白い肌体全体に刻まれている模様が問題だ。反転刻印という、概念としては魔術ではなく呪いに近いそれを刻まれてしまった為に、ハイエルフが本来使える聖属性の魔術が一切使えない状態だ。一応、肉体的な技術である弓術なんかは使えるので最低限の自衛は出来る。けど、それ以上は出来ないという状態だ。

 ついでに、本名をフルネームを教えてくれたが呼ぶのは禁止ということなので、シフィと呼んでいる。



 三人目は濡れるような綺麗な黒髪を持った鬼人種の少女、氷月華ひづきはな

 本来は両角だったらしいのだが、今は片角になっている。

 鬼人種にとっての角は、魔力の大本であると同時に、リヴァイアサンとは違った形で異界に繋がっているとされている。その繋がっている異界から力を引っ張り出す事で無尽蔵の力を得られるとも……。

 そんな、事実と実証されていないことのために折られてしまったそうだ。なお、片角になった事で力は半分に落ちているにもかかわらず、めちゃくちゃに強い。単純な体術でのぶつかり合いなら私もまだ勝てません。



 個性豊かなこの3人は、私預かりとなった。

 当初、私とアオイだけの二人で旅に出る予定たっだのだが、どちらも見た目が若すぎるという問題が浮上した。



 アオイは3年経ったので、現在は21歳。

 しかし、リス系の獣人種特有の小柄で童顔。未だに15~6歳ぐらいにも見える。そして私、アリッサは、培養カプセルから出された時から一切の成長をしていない。日々の代謝はしてるのにおかしい……。胸が大きくならない。いや、元が男だからさ……ね?



 ただ世界を旅して渡り歩く場合、確実に舐められるし面倒事が増える。

 それをどうするかと議論された結果、アリッサ・ステイシアは世界の大混乱の結果で没落した元貴族のご令嬢で、その護衛と侍従。そんな設定が爆誕してしまったのだ! いや、本当に意味不明だ。

 世界の混乱から200年弱、立ち直っていない箇所の方が多いし、元の世界で没落していた貴族の事なんざ誰も知らんだろう、そういう結論らしい。元貴族というネームバリューも、場所によっては役立つ可能性もある。



(ついでに、元貴族の看板に食いついてくる馬鹿を発見、処分出来る。そんな思惑もありそうだけど……)

 


 実際、様々な世界が一つなった影響は大きい。その影響を一番強く受けたのは、旧体制によって甘い蜜を啜っていた者たち。つまり王や貴族などの特権階級にいた存在。

 再編されて四つの区画に纏められる時に、そこに創られた新しい国や組織の多くが民主的な制度を導入した。何より、元々の世界で害毒だった存在を優遇して受け入れる理由は無い。百害あって一利なしである。



 もちろん、王制や皇帝を据える制度の国もある。この場合の問題は、別の世界の住人に対して、他の世界の王や皇帝を信じて祭り上げろなどと言われても納得しない。だからこそ、そういった制度の国では力こそを至上とする傾向が強い。ただでさえ世界の崩壊で治安は最悪だったのだ。力でねじ伏せる形になってでも、治安を安定させて守ってくれる存在が求められたのも当然だろう。

 納得出来ないなら力づくで……。一度無秩序になってしまった人を纏める為にはそれも必要悪だと黙認されている。



 まぁ、今も昔も、そして良くも悪くも貴族という看板にはそれだけで面倒事と力が付いてくると理解していればいいだろう。



 え? アオイはどうしたって?

 今も私の隣にいます。それぞれの勉強時間や仕事の時間以外はほぼ一緒です。



「にゃふふふふー」



 アオイのこの幸せそうな顔が見られるだけでなごむからいいんだけど。

 でも、しめる所はしめるないとね。



「アオイ、3日後にはここを出るけど、準備は済んでるの?」



「大丈夫ですよー」


 

 3年と1ケ月の付き合いで、アオイがやるべきことはしっかりやる性格なのは知っている。むしろ、支度などの点においては細かすぎるくらいに行う神経質とも取れる発言と行動を見ている。それでも聞いてしまうのは多分……。いや、それは今言うことじゃないな。



 自分も人の事は言えない。

 正直、気が重い案件があって今すぐにでも逃げ出したい心境で、絶賛現実逃避中でもある、

 


「今日もいい天気ダナー」



「ですねー」



 空が見えない地下の部屋。

 見えるはずもない空を夢想する。アオイの返答は……やはり気にしない方が良いだろう。


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