EP01-EX 狂気にして狂艶の科学者、『フェアリーライト』フラード視点



 最初は、ただただつまらないと感じていた。

 モニターには、実験体Aと騎士レンドが『普通』に戦っているの映し出されている。



(気に入らない。あぁ気に入らない。僕はこんな茶番が見たいわけじゃない!)



 いっそ暴走してくれれば、内側に眠っている因子の目覚めすら誘発出来るはずなのに、その兆候すら見られない。

 先祖が因縁の相手である、レンドを眼の前にしても目覚めないソレに、フラードの苛立ちは最高潮に達していた。周りにいる他の研究員達は、必死になってフラードの八つ当たりを受けないように気配を消していた。


  

 そんな冷たい空気の中、実験体Aが切り離された部位を武器に変換する。失われた右腕を瞬時に再生させていると、一般の研究者ならば驚く事態が起きているにも関わらず、フリードにとってその程度は想定の範囲内であると何の感慨も湧いてこない。強いてあげるなら、あの個体形成によって生まれた後付けの意識が、自分の体を制御できていることに関する感心程度。

 それ以外は何一つ面白いと思わせる事が起こらない。

 

 

 モニターするのもやめてしまおうか。

 そう考えた所で、劇的な変化が実験体Aに起きた。それだけでなく、映像を映し出すためのモニターが壊れる事態にまでなった。



「ほう……ほう! 向う側の事象であるにも関わらず、こちら側にすら干渉する程の力! 見たい、この目で直に見たいね!」



 言葉を言い終えるのが先か、研究者達を守る為に作られている強固な観測室から出るの先だったか。

 走り出した、正確に言えば、暴走を始めたマッドサイエンティストは止まらない。止められる者もいない。



 辿り着いた場所は、闘技場の中心からは見えないように隠されている台座が設置されている区画。

 その台座の中央では、普段のスーツ姿ではなく狩衣に着替えた玉輝(たまき)が、その顔を歪めて必死に結界を維持している姿が見える。その後ろには、闘技場で戦っている二人のまき散らす魔力の余波や被害を防ぐ為に結界を張っている魔術部門の者達が多くいる。



 実は、玉輝たまきは張っている結界と、後ろで魔術部門の者達が張っている結界は別物だ。

 後者は、こういったファンタジーの魔法や魔術と言えば想像する、中の存在を隔離したり、外敵から守る為のもの。それに対して、玉輝たまきが展開しているのは『神域境結界』と呼ばれるもの。



 仏教的な意味合いでの結界とは、本来は神聖な存在が鎮座する場所と穢れを含んだ俗世を分ける為の、言わば境目の事を指す。つまり、通常の魔術により結界は単純に『防ぐ』イメージであり、空間自体を別の領域として『分けて』『隔てる』為の魔術なのである

 今、神域境界結界を張っているのは、厳密には神ではないリヴァイアサンが放つ強烈なまでな圧力、総じて神気と呼ばれるそれをここから外へと出さない為。万が一にでもこれを外に漏らせば、当てられた人間がショック死する可能性も否定できない。

 また、リヴァイアサンにこちら側を見られることも防いでいるようだ。千里眼すら超越し、世界の裏側を視る事が出来たとされている存在の視線を防ぐ事で自分達の、ひいては世界への被害を押さえているのだ。



 つまり、今この場において目視で見るには最も安全な場所であるという事だ。整えられている貴賓席のような快適さは無いが、自分の目で見る事に夢中なフラードは気にしない。むしろ、かぶりつきだ。



 その後、またも余計な邪魔は入ったが、それによって更なる現象を見られたことで大いに満足した。満足しすぎる程に良いモノが見られた。

 フラードは、かつてない程の速足で自分専用の研究室に向かい、数ある研究室の中でも更に外部からの干渉を防ぐ処理が施されているスペースへと直行した。そこで椅子に座り、見たモノを想起する。



「ふ、ふはっ。アハハハハハハハハ」



 彼の部屋からは、何時までも狂った笑い声が響き渡っていた。


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