EP01-17
あの後、現場周辺を含めた諸々の後片付けは相当苦労したらしい。
気を失っていたので、『俺』こと
まぁ、色々と整理した方がいいだろう。
一つ目、『俺』が誰かを思い出した事。
数多くある平行世界で、歴史の分岐で行き詰ってしまった世界の日本と呼ばれる国で生きていた18歳の男子。
死因は、行き詰った世界を滅ぼしに、つまりは剪定に来たリヴァイアサンによって世界ごと喰われて消えたようだ。 崩れ行く世界の中で、大口を開けて襲い掛かるソレを見たのが最後の記憶なので間違いないだろう。
一応、その時のリヴァイアサンに対抗する為の組織に所属しており、そこである程度の武術・軍事学的な事も学んでいた。役に立ったかはよく分からないが。
また、例え残滓とは言え、今度は自分が喰らい返した相手に対して感慨が湧くか? そう問われればNOと返すだろう。
あの世界、あの日本は放っておいても勝手に滅びた世界だと
(アオイを傷つけた事は許さないが、そのリヴァイアサンの力のおかげで助けられたわけだし、恨みも感謝も無しで良いだろう)
心の中では、このような形で結論を出していた。
同時に、アリッサとして生きる覚悟が決まった。やはり自分の根底を知っているのは大事なようで、色々と迷っていた事にも整理が付いた。これからは一人称も『私』で行こうと思う。
二つ目、アオイ・シンガイの眷属化とそれによる変化。
助ける為にやった事なので後悔はしていない。だが、根本的な心にある人としての良心、引き金を引いてはいけないと思わせるストッパーを破壊してしまった事に若干の後味の悪さが残っている。
良く言えば、以前のように周りの目を気にして発言するのも躊躇っていた態度が無くなって、自分の意思を自分の口ではっきりと言えるようになったといった感じか。
彼女の体は現在、どこからどう調べても健康体そのものだ。
外面の変化として、栗色の瞳ががまるで血のような朱色に変わった事と、前髪の一部が白くなった事。本人は、メッシュを入れてるみたいでおしゃれですね! と言っていた。
かく言う、私の目も朱色になっていた。頭がおかしいとしか思えない研究者――フラードと名乗っていた研究者の見立てでは、リヴァイアサンの因子が外から一方的に打込まれた状態から、完全な意味で融合、安定している状態になった結果だそうだ。
内面、精神面は酷いと言わざるを得ない。
元々、満たされた環境ではない状況であった為にアリッサへの――ある種の依存心が生まれていたわけだが、それが完全な忠誠心にすり替わったようで、アリッサの側にいないと落ち着かない状態にまでなっている。
ふと思い付きで、私が世界を壊すって言ったらどうする? と聞いたのだが、返事は即答だった。
「壊れればいいと思います! こんな世界!」
なんの迷いもない、綺麗な瞳でそれを言われて頭を抱えたのは許してほしい。
アオイがこの世界を嫌い、そう思っている気配は幾度となく感じていたし、彼女からしたらそれは当然の感情なのかもしれない。だが、破滅へと行きつくその引き金を引く事に躊躇いが無いのはまずい。不用意な発言をしないように気をつけねばなるまい。
そんなアオイに対して悩みが一つ、リス……というよりは犬のような忠誠心と懐いてくる姿は可愛い。ただただひたすらに可愛い! もしベッドの中で襲っても簡単に受け入れそうなので、最近は自制心が頑張っております、はい。
三つ目、私とアオイは十分な装備と知識を与えた後、この説明の時に初めて聞かされた組織名、
これは、目覚めてから判明した、新しい能力が関係している。
何となくだが、自分と同じリヴァイアサンの因子を持っている相手を一定範囲内であれば感知出来るになった事と、因子を植え付けられた相手からそれを剥離させて取り込めるようになった事。
あの闘技場で檻の中にいた三人。
レンドとの戦いの前にリヴァイアサンが近寄って接触したのは、三人の中にあった自らの因子を回収して強くなる事だった。それ以外の実験による弊害はどうにも出来なかったが、少なくともリヴァイアサンの因子による自己崩壊は防げるとのことだった。
ここで問題視されたのが、因子を取り込めば取り込むほど強くなるという点。
アリッサを押さえられなくなる可能性に加えて、再び暴走する可能性も否定出来ない。議論は白熱したらしいが、結局その有用性を無駄にするのはもったいないという結論に落ち着いた。
(あれ……そう言えばあの三人はどうなるんだろう? 時期を見て尋ねてみないと……)
別段、不当な扱いをされるとは思わない。だが、ただで生きていられる程世界は優しくない。
それなりの対応をして
相手はその活動実体すら中々掴めない組織、
裏に、私自身を囮にしている可能性と、万が一制御出来なくなって突然暴れだした場合、自分達との繋がりを否定しつつ周りの協力を得た万全の状態で殺す、『協力を得る』というお題目を得られるのは大きい。そう言った思惑もありそうだが、世界を回って様々な形式や技術を見られるのは大歓迎だ。突っ込まないことにしておいた。
「にゃふー。ホロ……ホロ……ピヨ……ピヨ……」
床に座っている私の膝に、もふもふの頭を置いて気持ちよさそうに寝ているアオイを見ていると、顔がほころぶ。ただ、ただ! リスが「ホロホロ」や「ピヨピヨ」と鳴くのは、春などに異性を呼ぶ時の声だったはずで、つまりは……そういうことである。
(……襲ってしまいたい)
ほんと、自制心さんガンバレ。
その後、三年の時間を掛け、生きる上での最低限の知識から学術、武術、魔術、科学、地理とそこに住んでいる人種同士での軋轢状況等の知識と教わり、それと同時にアリッサ専用の装備も作られた。
そして今日、私は世界へと旅立つ。
三年間で得た知識や技術、それによって心に生まれた願いを叶える為に。
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