EP01-15



「つぅ……どうなりました……?」



 レンドが頭を振りながら立ち上がる。彼が立ち上がろうとしている場所は、襲い来るリヴァイアサンを迎撃する為に立っていた先程の場所とは大きくずれた場所だ。

 覚えているのは、双方の攻撃がぶつかり合う瞬間に自分が横から殴り飛ばされたという事だ。



 

 自分が吹き飛ばされた事で、リヴァイアサンが突っ込んだであろう場所へ顔を向ける。

 そこにリヴァイアサンという化け物はおらず、腹部に巨大な穴を開けられたアオイと、アオイに必死になって声を掛けているアリッサがいた。

 

 

「一体何が……?」



 問いかけている言葉が出るが、大体の事情は予想が付く。

 


「お前さんにしては珍しく出し抜かれたな?」



「……エギンさん」



 レンドの後ろに、ゆっくり歩いてきたエギンが立っている。

 その顔は、レンドと同じく困惑に満ちていた。



「ぶつかり合う瞬間、リスのお嬢ちゃんがお前さんを吹っ飛ばして入れ替わり、腹であの攻撃を正面から受けてたぜ」



「それによる精神的な揺さぶりでリヴァイアサンが押し込められて彼女が出てきた、と?」



「どうだかねぇ?瞳は両方とも紫、つまり厄種や崩壊獣絡みの色のままだ」



 エギンのその言葉に心から驚き、もう一度アリッサを見る。確かに、両目とも紫色のままであるのが見える。



 ――紫。



 それは現存する崩壊獣の瞳の色であり、元はリヴァイアサンの瞳の色。

 ゆえに今の時代では、先天的に紫の色素を持って生まれただけで迫害される事もあるほどに忌避されている色だ。



 アリッサだけでなく檻の中の三人が片方だけとは言え、瞳が紫色をしていたのは研究施設内の実験でリヴァイアサンの因子を打ち込まれたからである。同時に、このような実験事態を行う組織は一つだけであり、眠れる母神ヒュプノ・マザーの実験体の証拠でもある。

 


 今迄、王無き器ノーヘッド・キャリバーが保護してきた実験体のその多くは自壊している。強すぎるリヴァイアサンの因子が、徐々に本来の肉体組織を蝕み、崩壊させてしまうのだ。

 人が体の末端部分から溶けて崩れていく様は、流石のレンドであっても気分の良いものではなかった。



「フラード博士はなんと言っているんですか?」



「通信はしてみたが、ありゃ駄目だな。興奮のしすぎで会話にならなかった」



 つまり、現状をある程度は把握しているという事なのだが、マッドサイエンティストが興奮すると手が付けられない、話が出来ない傾向に陥るのは勘弁してほしいと心で愚痴る。

 もっとも、あのサイコパスに何を言っても無駄だとこれまでの経験で嫌というほど感じさせられているので口に出したりはしない。


 

 そこで、魔術的な通信、テレパシーのようなものがエギンとレンド、両名に届く。

 相手は玉輝たまきだった。



「今すぐその子をアオイから引きはがして!!」



 通信内容の意味は分からない。だが切羽詰まった玉輝たまきの声が緊急事態である事を理解させる。



「なにが……」



 エギンとレンドが、倒れているアオイと縋りついているアリッサを見て……固まった。動かなければいけない事態だと告げた玉輝たまきの言葉を聞いていてなお、それは近寄りがたい神聖な光景と錯覚させられた。


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