EP01-13 アオイ・シンガイ視点
二人の戦いを見ている存在はそれなりに多くいたのだが、その中でも怯えながらも確固たる意志で見ている瞳が一対存在した。
(違う。こんなのダメです……違います!!)
涙を限界一杯まで溜め込んだ瞳を、日頃の気弱な彼女からは想像出来ない強さで見つめている。
たった一ヶ月、ほんの少しだけ側にいただけであり、押し付けられた役目でしかなかった。それでも、他の誰が何と言おうと私――アオイにとって今迄生きてきた時間で最も救われた時間だった。
多くの事を彼女と話したわけじゃない。自分が周りの人より劣っている事実を話さなかったのは、話したらこの人も蔑むのではないかと怯えた結果だったけれど、今では話しておくべきだったと思っている。
この少女はそんな事で私を下に見たりしないとすぐに気づく程、いっそ呆れる程に真っすぐな少女だったから。ひょっとしたら、そんな小さいこと気にしないでいいのにと笑い飛ばす彼女の屈託のない笑顔すら想像出来る。
だからこそ許せない。許してはならない。
眼の前の状況をどうにかするのが先だ。
――例えそれが、アオイ自身の命を捨てる結果になったとしても。
覚悟は決まっている。この状況になった時点で散々迷い、その上で決めた。
そもそも、アオイは自分程度の軽い命を捨てた程度でどうにかなるなどと思い上がっているわけではない。ただ何もしないで見ているだけなのが認められないのだ。
自分が貶められるのは良い。ただの事実だから。
けれど、今あの体を動かしている存在は自分を欲してくれたを相手を、真っ向から穢しているのがどうしようもなく許せない。
アリッサは消えたわけじゃない。意識の奥に押し込められているだけだ。別に特別な何かで繋がっているわけでもないのにそれが分かるのは、あの時間で少しでも分かりあえていた。そう思い上がりたくなる自分がいるのに驚き、喜びが心を占める。
「私は貴方に救われました。だから、今度は私が救います」
そこには、常に人の視線に怯え続けていた少女はいない。
覚悟を決めたリス系の獣人の少女、アオイ・シンガイは今も続く戦場の真ん中へと向けて走り出した。
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