EP01-5



「じゃーあー、やっと僕の番だね?」



 重くなりつつあった部屋の空気が、より一層重くなる。

 喋った本人の声の調子は陽気すぎる程に高い。悪を知らない子供が無邪気に蟻を殺し、それを楽しそうに報告するのと同種の無邪気さが鼻につく。

 黙っていれば綺麗だと称される顔を欲望で醜く歪め、今にも高笑いしそうな雰囲気でフレードが語り出す。



「まず初めに、あの研究所の施設はほとんど調べ終ったよ。まぁ、特に気になるモノは無かったけどねぇ。だけど、騎士の彼らが受けた被害の状況を含め、彼女を造っていた研究はとても面白いよ」



 フレードが気になるモノは無い、至極つまらなかったとその態度が告げている。彼にそう判断されている研究施設区画が決して程度の低い研究を行っていたわけではない。むしろ積極的に非道な生物実験が行われていた。勿論、人間を含んだ、である。

 にも関わらず、それを気にならないと言い切る彼の頭の中には一つの事、アリッサの事だけで占められていた。

 


「彼女……えーと」



「アリッサ、アリッサ・ステイシアと本人と話して決まりました」



「あぁ、そのアリッサちゃんだ」



 彼女、アリッサの名前を決めた事は既に報告がいっているはずなのに覚えていないあたり、彼女個人ではなくその実験体としてのモノとして見てないのが良く分かる。

 名前を教えた玉輝たまきの顔に再び、更に強く深い嫌悪の感情が浮かぶ。それも、今回は隠すようなことはしない。どうせ、この状態になったフレードが見ているはずもないのだと知っているからだ。



「アリッサちゃんを一言で現すなら、彼女はホムンクルスに近い存在だったよ。詳細は違うし、言葉で説明するのは面倒だからこれを……」



 そう言いながら、機密・部外秘の印と盗視・複製防止の魔術が掛けられた報告書が三人へと配られた。

 受け取った三人が黙々と目を通す。

 その時間は五分も無かったが、結果として三人共が絶句した。



「人間の心臓を……生きている状態で取り出した!? その上で他の生物の遺伝子コードを打ち込んで培養、精製したですって!」



 玉輝たまきが今度こそ、隠しもせずに体全体で怒りを露わにし、円卓を叩きながら立ち上がる。

 レンドとエギンも何も言わないが、思っている感情は同じだろう。研究施設の記録を調べた結果、心臓を取り出されたのが今のアリッサの外見年齢と同じ程度、13歳前後の少女のモノであると追記されていればなおさらだ。



「そして、まだ調べている段階だからはっきりとは言えないが、少なくとも1000種類以上の遺伝子コードを使っている可能性が高い。本当に狂っているなぁ、彼は!!」



 ――どの口が言うのか。



 三人の人間の意見が一致し続ける空間とは中々に奇妙ではある。フレードという狂気の科学者の前では何時もの事でもあるが。

 とりあえず、アリッサがどういう存在なのかはこの報告書を読めばいいだろう。これ以上、長々とフレードの考えを垂れ流されは堪らないと思い、それよりも話を進めようとレンドがフレードの言葉を遮る形で、この場にいる皆に問いかける。



「では、この報告書と玉輝たまきさん、エギンさんが会話した実際の彼女の反応を考え、どう対応するか決めましょう」



 この部屋に集まった当初から変わらない笑顔を浮かべ、レンドが議題のまとめに入る。

 


 アリッサが居ない場所で、アリッサの処遇が決まっていく。

 結局、四人の話し合いは朝方まで続き、結論は出た。


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