EP01-4
「では、皆さん揃った事ですし、諸々の報告も含めて始めましょうか」
レンドは、終始丁寧な口調と笑顔のまま、穏やかに声を発する。
ここに集うメンバーの中で一番まともな人間だと言われている人物なのだが、このような場所にいる存在がまともである筈もない。彼の本質を知る人間は、レンドに近づくことを嫌がる事が多い。
「まず私から。騎士部門の人手不足の件です」
そこでレンドの笑顔が崩れる。表面上は悲しいとばかりの表情に変わったのに、その声色は何も変わらない。
「やはり、先日の襲撃でかなりの人数の亡くなったのが痛いですね。人員の8割が死亡で、残りの2割が重軽傷。いやはやまったく……」
右手を頭に添えてやれやれと首を振るレンドと、それを見て笑うエギン。エギンの心の中では笑う、ではなく嗤っていそうだが。
被害報告内の死亡した8割と称したが、実際は7割がアリッサの手で残りの1割はガードロボや警備兵によって死んだ。生き残ったとされる2割の重軽傷者も、ほぼ全てがアリッサ一人で与えた被害だ。つまりは、突入メンバーは大半がアリッサ一人によって全滅させられたという事実はかなり重い。
元々、騎士部門は少数精鋭で組織されている一騎当千を主とする部門であり、今回の乗り込む場所は軍事施設等の戦闘特化な場所ではなく研究所だった。施設に常駐している警備による多少の被害はともかく、ここまでの事態になる事は誰も予想していなかった。
「荒事と護衛に秀でてる騎士部門のやつがそれだけやられるとはな……。あのお嬢ちゃんはやるねぇ」
「エギン殿、笑い事ではありませんよ」
「そうですね。実際、我々が受けたこの被害を他の組織や国に隠すのに苦労しています。何処を見ても敵だらけの現状で、我々が弱体化したなどと判断出来る情報が外へ漏れるのは避けたいですから」
ここで初めて、本当の意味でレンドの雰囲気に感情が混じる。それは微かな苛立ち。
その神出鬼没ぶりと確実に被害を与える実力、思い通りにならない存在にかなりの他の組織や国からは反感を買っているのが現状だ。分かっているだけでも多くいる敵と、未だ隠れている潜在的な敵対者を考えれば楽観視は出来ない。
そこに騎士部門がほぼ壊滅した。そんな情報が入ればこちらに攻撃をしかけてくる輩が現れるのは予想に難くない。
「まぁ、補欠メンバーもいますし、ある程度の誤魔化しは出来ます。ですが、騎士部門が立て直すまでの間、他部門の皆さんのご迷惑をお掛けするかもしれませんがよろしくお願いします」
恭しく、ゆっくりと頭を下げる。
長々と話していながら中身のない会話、恐らくはこの後にする本題の為の布石でしかないだろう事は、他の三人も理解していて何も言わない。
「次は俺の戦争部門か。と言っても、俺の方からも特段に報告する事は何もねぇがな。各方面の戦場バランス維持に関しても問題無く回ってる。だが、これからの事は……知らねぇがな」
戦争部門。王の無い器が世間的に最も知られている部門。それこそ、一般市民ですら知っているほどに。
主な活動内容はエギンが口にした通り、各戦場に現れては襲い掛かり、一方だけが勝ち過ぎないようにしたりする工作を行いパワーバランスを保つ、一種のゲリラ戦闘員だ。傭兵と称さないのは、雇い主が居ないという一点があるからだ。
各地域を状況を正確に把握しコントロールする、そんな神懸った采配をしているエギンですらこれからの事……そう言ったのは、今回の事態が個人レベルの戦闘だけでなく、戦場そのもののパワーバランスを変える存在が新たに出てくる可能性を否定出来なくなったからだ。アリッサという異常個体の実例が生まれた以上、次からは例外などとは言っていられないと考えているのだ。
「次は魔術部門ですが……こちらも芳しくありませんね」
「例の研究者にかけた追手は全て撃退されました。殺された手口はいつも通り、使い捨ての実験体を襲わせて最後は自爆させたようです」
「行先はどっちよ?」
その質問に、
ちなみに、
表の戦いに参加すれば高威力、高精度の魔術を駆使して圧倒的な殲滅力を発揮する。同時に表があるのならば裏も存在する。裏の戦い、それは情報収集から暗殺を含めた、ある種の隠密的な事すらやってのける幅広い人材と技術を持っている部門だ。
四人の中の誰かがため息を付いた音が聞こえる。
いつもの事とはいえ、
「彼ら、
エギンの言葉は、ここにいる四人だけでなく
――『
それがアリッサを造った研究者達が所属する組織。
名前から想像できる通り、組織と言うよりは一種の宗教団体に近い。本来ならば存在しない名前を消された神を崇め、その神をこの世界に降ろすことで世界の救済を謳う組織。
この世界で最も倫理観が存在しない集団であり、それ故に技術力が異常なまでに発展している厄介な組織。
再び、部屋の中の誰かがため息を付く。
面倒事が続く。その予感は決して外れてくれはしない。
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