EP01-2
現在、夜の20時と少し回った辺り。
明かりを付けず、暗い部屋の中でベッドに寝転がって天井を眺めている。
話し合いは4時間以上に続き、有益である話と不毛な話をし続けて精神的な疲れを自覚する。
話し合いの中で一番の成果は自分の……『俺』ではなくこの少女の体の生き物としての名前が与えられた事。
――アリッサ・ステイシア。
それが『今』の私の名前で、私という存在の核を作っていく上で重要なものになるだろう。
例えそれが、周りの者からしたらただ記号だとしても、名前を付ける事自体に意味がある。だからこそ、私はアリッサという名前を大事にしていこうと思う。
二番目の収穫は自分の見た目だろうか? ぶっちゃけ、美少女でした。
恐ろしい程に整ったバランスで造られた顔と体。なるほど、間違いなく自分が人工物だと思える程に。右の瞳は金色で左の瞳は紫色だった。髪は鮮やかな蒼い色をしており、毛先からは銀色の粒子が舞っていた。これは恐らくは、強すぎる魔力が漏れ出ている為で有害なものではないだろうと言われたのだが、制御出来るようになったからといって見えなくなるのはちょっと寂しいと思う。厨二心ってやつかな?
如何せん、培養ケースの中では自分の姿を、特に顔を確認する事が出来なかったので、話し合いを始める前に先に鏡をくれ。そう言った時に私は、アリッサはつい笑ってしまった。まぁ、これから話し合いだという時に、いきなり鏡を……と言われれば混乱もするだろう。再度口を開いたまま固まった、エギンと
うん? なんか自分の事ばかりで、話した内容については全く語ってない気がするが……、まぁ、いいか。重要なことである事は間違いないしね!
そして、私の処遇は話し合いの結果で決めるので少し待てと言われた。
エギンと
(とてつもなく厄介な『物』として、兵器として認識されてるわけだ)
それが間違いだとは思わない。
自分で自身の力を制御出来ない危険物である事に自覚はあるし、私はまだ自分がどういった経緯で生まれた実験生物なのかすら知らない。捉えられた時、そのまま殺されなかっただけでも御の字だろう。
すっと、右手を顔の前へ持ってくる。
少女特有の細く、小さな手。
――既に幾人をも血の海へと沈め、二度と目覚めない闇へと送り込んだ血濡れの手。
あの時、自分が暴走させられた時の事を思い出す。
視界が紅く染まり、感情の全てが暴走させられたと認識しているあの時。暴れまわっていた時のこの手はこんな綺麗な手ではなかった。鋭いかぎづめが生えた、蒼銀の巨腕へと変化していたのだ。なのに今は本当に綺麗な手だ。まだ何も知らない、経験の積み重ねので生まれる皺や些細な怪我の痕一つないまっさらな手。
その記憶から分かる事は、自分が人の形をしていても人でないというだけだ。
『俺』の知識でその世界の創作物ではあるが、人の形をした人ならざる者というものは沢山描かれていた。ここは記憶の中にあるあの世界とは別の形で技術が発展した世界、そういったモノが造られても、造れる技術があったとしても別に何の感慨も湧いてこない。自分が『ソレ』になったのには頭が痛いが。
どの道私、アリッサには現状、選択肢が余りにも少ない。
頭に思い浮かべるのは狐の獣人の女性と獣人よりも獣らしい一面を見せた男。彼らがどの様な判断を下そうとも取れる手段は二つ。
「不確定要素が絡む可能性もあるけど、最悪の場合の覚悟だけは……決めておかないとね」
夜闇に包まれた部屋で呟いた言葉は、そのまま闇へと消えていった。
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