EP00-EX1



 押収物 

 シア・ハルーラ 手記No01 



 私は生まれついての魔力量は平均値だったが、知識面における才能が有ったらしい。何かを調べることは苦痛にならない。むしろ楽しいことであり、それに没頭する時間は幸せですらあった。決まっていたかのように研究者の道を志し、自身の努力もあってそれなりの順風満帆な人生を送っていたように思う。



 研究をするだけならば魔力の大きさはそれほど左右されない。自分が組み立てた理論を実践できる魔力の大きい人間に協力を頼めばいいだけなのだから。もちろん、それによって煩わしい取引などが発生したのは当然だが、被験者の一人の中にとても好感を持てる男性がいた。



 それが自分の初恋だったのは間違いないだろう。

 そんな男性に気が付けば自然と、実験など関係無しに声をかけては話をし、少しの顛末の末に付き合うことになった。初恋は叶わないというジンクスを聞いたことがあるが、私には当てはまらなかったみたいなどとこっそり自惚れた自覚がある。



 一般レベルの魔力量や知識量では通うことすら許されない魔術の大学を卒業し、大学で見つけた恋の相手と数年後に結婚。愛の結晶ともいえる双子の子供を設けられた。



 それこそが私の最高の幸せ。同時に私の幸せの絶頂期の終わりだ。



 ある日、卒業した大学で得ていた伝手で私の元に一通の手紙が届いた。

 手紙の差出人を見て、正直私は手紙をそのまま捨ててしまおうした。人としての常識を無視してでもその対応を考えるくらい、私が嫌悪していた相手である。また、伝手などといっても、どうやって現在の自分の住所などを正確に把握したのかすら分からない程の縁の薄い相手。

 それでも手紙を捨てられなかったのは、差出人が持っていた特異な才能にある。

 


 その差出人の名前は『××××・×・××××』(黒塗りで読めない部分は全て『×』と表記)



 私が卒業した大学内で天才と称えられていた、同期の二人の男性。その片割れにして鬼才。彼が考え出した理論や技術は確かに革新的で、将来は世界を救う傑物の一人であると誰からも期待されていた。

 だが、私はそんな彼の事を狂人であると判断し、それゆえの『狂』才だと判断していた。多少の嫉妬があったのも認めよう。だがあれは……そんな生易しいものではないと私はとあるきっかけで知っていた。



 人はあの人物が優秀を超えた一握りの天才である、そう評価することが多い。周囲との認識のずれが煩わしいと思ったのは最初だけで、本当の変人や狂人は『それ』を正しく自覚して隠すことが出来るのだと、あの人物を見て一種の恐怖すら覚えたほどだ。

 才能への嫉妬ではなく恐怖。行き過ぎた才能は嫉妬すら抱けない、あれは別の何かだと恐怖しかしなかったのだから。



 その恐怖こそが私から彼への評価のすべてであり、手の中にある手紙が彼の狂気が引き起こす物事に足を掴まれたことを否応なく意識させられる。

 背中に冷汗が流れたこの瞬間を、私は永遠に忘れないだろう。


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