兼業雑貨屋 KBTIT

あらかわ

兼業ショップ KBTIT

ここは、とある県のとある市内のとある駅から歩いて5分程度の路地裏にある二階建てのテナントショップの一階。

 

カランコロンカラン


ヴィンテージ風の玄関扉を今日も訳ありげな若者が開く。


「いらっしゃい。今日は何の御用事で。」


背の高くがたいの良いスキンヘッドの中年の男が、低くそれでいて腹に突き刺さるような声で訝しげに尋ねる。


「あの2人なんですけど空いてますか?」


「あっ、カフェの方ですね。お好きな席へどうぞ。」


私がすかさず正面カウンターから見て右の方に位置するカフェスペースへお客様を案内する。


「店長!ただでさえ顔怖いのに、なんでいつもそんな態度悪い対応するですか!」


「いや、そんなつもりは無くて、すまない…。」


「次から気をつけて下さい!私オーダー取って来ますから。」


このやりとり何回目になるだろうか。もう言うのも馬鹿馬鹿しくなって来た。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」


「キャラメルマキアート、グランデで。」

「えっ、何それ?グランデってなに?えっ、じゃあ同じので。」


マスクとサングラスをした明るい髪の女性は慣れた感じで答え、もう片方の前髪がアシメになっているポニーテイルのジト目の女の子は慌ててそう答えた。


「かしこまりました。少々お待ちください。」


カランコロンカラン


オーダーを取り終えたと同時に再び扉の鐘が鳴る。


「いらっしゃい。今日は何の御用事で。」


またあのオヤジはぁ!

急ぎ足でレジ兼カウンター兼厨房へ向かう。


「お客様あの…、ってあれ?」


「久方ぶりだな坊主。どうだ、良い鎖帷子

が入ったぞ。グラスファイバー繊維での加工が実現し、軽量化、更にはドラゴラム鉱石を繊維に合成することで超耐熱性、超耐久性を実現することができた一級品だぞ。」


「気になるけど今は良いかな。金あんまないし…。後でLINEで送っててよ。あと今日はこっちで。」


「あいよ。」


やや背の高く、男性にしては髪の長いメガネの猫背の男の子が、店長と仲良さげによくわからない話をしている。


「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」


「後からもう1人きます。」


「2名様ですね。お好きな席へどうぞ。」


カフェスペースの方へ促すと男の子は一目散に1番角の席に向かっていく。


「店長、あの子知り合いですか。」


「ああ、昔の馴染みでな。最近は滅多に来なくなってしまったがな。雰囲気もだいぶ変わってたな。流石は忍びだな。」


「忍びって…、」


この店にはよく変わったお客様が来る。さっきみたいに私にはよく分からない専門用語で楽しそうにお話をしたり、カフェと反対側の店長のセレクトショップ称する変な店の方へ出入りしたりするお客様達とか、


「そうですか。オーダー取ってきます。あとこれ先程のお客様からのオーダーです。」


「あいよ。…おいこんなメニューないだろ。なんだよキャラメルなんとかって。」


「大丈夫です。こないだレシピ書いといたんで。ちなみにグランデはLLサイズって考えで良いと思いますので。」


「…やってみるよ。」


頼まれたことに対しては決してできないとは言わない店長は

やるせない返事と共にバックヤードへ潜っていった。


高校生バイトの私、高城 つばさとワイルドが服を着て歩いているとしか思えない店長の2人でなんとか回しているこの店 KBTIT 2号店は今日も一風変わったお客様をご案内致します。


「ほら出来たぞ。持っていってくれ。」


「早いなぁ。さすが店長。完璧じゃないですか。」


照れたのか何も言わずに再びカウンターに戻る店長。


カランコロンカラン


「いらっしゃい。今日はどんな御用事で。」


あら、また1人変わったお客様がいらしたみたいですね。ようこそカフェ兼 WAR SHOP KBTITへ。


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兼業雑貨屋 KBTIT あらかわ @arakawa045621

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