三番星

 さらに足を進めたシンがついたのはある秘密基地だった。シンが作ったものではないが、本格的に作られていた秘密基地だった。アスレチックやゲームなどの遊び道具以外にもテントが貼られていたり、カンパンなどの食料もあった。せっかく作った子供には申し訳ないが、シンはテントの中にずけずけと入り込んだ。テントの中にはパーティーグッズのような仮面が置かれていた。

「これで顔を隠せそうだ。」

 シンはそれを手に取ると、装着した。そして、炎の紋章を浮かび上がらせると、見つめた。ゲージは先ほどからあまり変わっていなかった。

「あいつの言う通りなのかな。」

 シンは腕を見つめたまま、後ろに寝転んだ。そのまま瞳を閉じてしまうと、眠気に襲われ、そのまま眠ってしまった。

 それから数分くらい経った頃だろうか。シンが目を覚ますと、誰かが顔を覗き込んでいた。

「うわっ!!」

 シンがそう言ってのけぞった。少女はきょとんとした顔になり、首を傾げた。シンを見つめていた黒髪をすらりと伸ばし、ジャージを着ている中学生くらいの少女、花山院紗良は口を開いた。

「あなた、だあれ?」

 シンが戸惑って何も言えずにいると、紗良はなおも続けた。

「その仮面、取ってほしいな!!」

 紗良がそう言ってシンの仮面に手を伸ばすと、シンは間一髪のところでかわした。その様子に紗良は頬を膨らませた。すると、急にシンの耳にシュッという謎の風を切る音が聞こえた。シンはとっさに音と反対方向に頭を傾けた。何かがシンの頬をかすめて行くのを感じ、頬に触れると、血が一直線についていた。紗良の手には折りたたみ式ナイフが握られていた。シンは思わず、後ずさりした。驚くシンの顔を見て、紗良は嬉しそうに笑った。

「紗良?やめなよ♬いきなり知らない人を殺そうとするのは♬」

 狐の面をかぶり、猫耳をつけた銀髪パーカーでにこにこ笑っているアメを口に含んだ中学一年生らしき少年、三日月一丸が紗良の腕を軽く引いた。

「全然反応してくれないから生きてるのか確かめたかっただけよ!ねぇ、紗良の何が悪かったの?ねぇ、ねぇ?」

 紗良はそう言って、微笑んでいたが、目は少しも笑っていなかった。ありありと突き刺さるすごい殺気にシンは思わず目を逸らした。

「ごめんね♫紗良はちょっとせっかちなんだよね♫」

 一丸はそう言って胸の前で手を合わせた。

「えい。」

 急にシンの視界が広くなり、息苦しさが消えた。

「万優良ちゃん!?」

 一丸が驚いたような顔をして、シンの後ろを指さした。シンが振り向くと、そこには二つ結びでアホ毛が目立つジャージの高校生くらいの少女、旭万優良がシンの仮面を取っていた。

「あっ!?」

 シンはとっさに自分の顔を手で隠したが、すでに遅かった。

「おい…」

 急に黒マスクをつけ、前髪を長く伸ばした青髪の高校生くらいの少年、夜倉零が口を開いた。

「あいつ…こんな時間に学校がないなんておかしいと思ったら、一ノ瀬シンじゃないか。」

 その言葉とともに、四人の顔色ががらりと変わった。一丸の先程までの友好的な雰囲気は消え、万優良はシンを睨みつけていた。

「犯罪者風情が!紗良達の家に足を踏み入れるんじゃない!!」

 急に紗良がシンの喉元めがけてナイフを投げた。

「止まれ!」

 シンはとっさにそう叫ぶと、テントから転がり出た。心臓がドクドク鳴り、息をするのが苦しい。

「もしクールタイムが終わってなかったら…死んでた。」

 紗良は本気だった。本気でシンを狙ってきていた。シンが紋章に目をやると、紋章は4分の1ほど赤く染まっていた。

「お前らは、何者だ?」

 シンは息を切らしながら言った。

「紗良達は朱黄泉団。聞いたことあるでしょ??」

 紗良は一瞬でシンの背後に回ると、シンの後頭部にナイフを突き刺そうと投げた。瞬間移動か何かの奇能力なのだろう。シンは間一髪でかわす。

「紗良!あいつの奇能力はやばい!耳を塞ぐのよ!」

 万優良が紗良に向かって叫んだ。紗良は耳を塞ぐと、街灯の上に降り立った。そして、紗良は針を腰から取り出し、シンに向けて放った。

「止まれ!!」

 シンは叫んだが、奇能力は発動せず、針は首に突き刺さった。

「くっ!!」

 シンは首に感じる鈍い痛みに顔を歪めながら、勢いよく針を抜いた。すると、急に風が吹き、紗良の片足が街頭から離れた。紗良は少しよろけ、バランスを取るために手を耳から離してしまった。シンはその隙を見逃さなかった。

「街灯全て壊れろ!!」

 今回は発動したシンの能力でシンの近くにあった街灯はすべて粉々に砕け散った。紗良はその場から逃げることができず、街灯の倒壊に巻き込まれ、受け身も取れずに地面に叩きつけられた。煙が晴れた頃には、紗良は意識を失った状態でその場に転がっていた。

「紗良!!!」

 一丸は全速力で紗良の元へ駆け寄ると、紗良の体を抱き寄せた。一丸はパーカーや髪が汚れるのも気にせず、必死に紗良の血を止めようとした。紗良の肉は所々えぐれており、ガラスの破片が至るところに突き刺さっていた。誰が見ても重体で、助かるかも分からない程の怪我だった。

 そのすきにシンは秘密基地から逃げ出した。零と万優良はシンと紗良を見比べると、紗良の元へと駆け寄った。

「行けよ…。」

 一丸は小声で零達に向かって言った。握りしめた拳がぷるぷると震えており、声は少しかすれていた。

「何だ…?」

「行けっつってんだよ!!紗良は俺に任せて行けよ!!逃しちまうだろ?!捕まえられなかったらまた紗良が悲しむ!紗良は俺が伊藤のところに連れて行くから!」

 一丸は零達に向かって怒鳴った。一丸は零達に怒っていたのではなかった。紗良を守れなかった自分に対して怒りを爆発させていた。それは一丸本人にも十分わかっていたし、長年一緒にいた零と万優良にも分かっていた。

「もう遅い…。それに俺らにとっても紗良の方が大事だ…。」

 零はそう言って秘密基地の外を指差した。シンの姿はすでに消えていた。

「くそ!!俺があのとき無理にでも紗良を助けていたら!!!」

 一丸はそう言うと、重力を操作して宙へと浮かび上がった。

「お前らは引き続き一ノ瀬シンを追え。俺は紗良を伊藤のところに連れて行った後に本部に報告に行ってくる。こうなったら手段を選んでられねえ。紗良が回復するまでに奴らを絶対に殺す。」

 一丸はそう言うと猛スピードで本部へと向かった。空を飛びながら、一丸は紗良の前髪をかき分けた。紗良の額には荒々しい傷跡が残っていた。

 一丸はその傷に触れた。

「ごめん。紗良。俺はまた紗良のことを守れなかった…。しかも…俺は辛いことも思い出させそうになってしまったな。」

 一丸の目からこぼれた涙が紗良の頬を濡らした。

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