二番星

「はぁっ…はぁ…。んだよ、あれ…。」

 シンは少しひねった右足を庇いながら、よろよろと、でも着実に進んでいた。幸いにも教室は二階であったため、軽くひねっただけで済んだが、それより高かった時点でGAME OVERだ。

「あいつら…俺が殺しちゃったのかなぁ。」

 シンは独り言のように呟いた。当然答えが返ってくるはずはないのだが。だが…。

「そうだよ。君が殺したんだ。」

 草むらから誰かの声が聞こえた。シンはびっくりして、足を止める。しかし、草むらには誰の姿も見当たらない。

「君は僕を捉えることはできない。なぜなら、僕はここに存在しないからだ。」

 そんなおちゃらけた声にシンは馬鹿にされたと思い、声を無視して歩き始めた。

「君の奇能力がどんなものか興味はないのかい?」

 その言葉に、シンはまたもや足を止めた。そして、後ずさるとシンはギロリと声の主を睨みつけた。

「何だ。教えろ。」

 声の主は苦笑いをした。

「もうちょっと君も人にものを頼む態度ってのを改めた方がいいと思うけど…

ま、いーや。君の奇能力は服従。」

「服従?」

 シンは驚きとともに、胸の奥にはワクワクした気持ちがあることに気づいた。そんな自分に微塵も恐ろしさを感じなかった。それどころか、自分を誇りに思い始めていた。

「そう。君が命令すれば人間は、いや物でさえもその通りに動いてくれる。でも…」

 声の主は一度言葉を切った。

「君の奇能力にはいくつかの制限がある。一つ目は、誰かを操れるわけではないということ。」

「つまり…誰かを動かして敵を倒して欲しいというのは無理ということか?」

「そういうことだ。動きを止めたり、殺したりはできるが、間接的に人に命令を下すことはできない。」

 シンはスマホのメモアプリを起動すると、そこに「命令は直接的」と書き込んだ。

「二つ目。君が能力を発動した後はクールタイムがある。そうだな…じゃあ、試しに僕に黙れって念じてみてよ。」

 シンは言われた通りに心の中で念じた。すると、腕が熱くなり、炎の形の紋章が浮かび上がった。

「そのゲージが赤く溜まるまで君は能力を使えない。あと、これは三つ目にも関わってくるんだけど、命令の重さに従ってゲージが減る。」

 紋章の下部分は少し赤くなっていた。シンが目を凝らすと、少しずつであるが、段々ゲージが溜まっていっているのが分かった。

「君はさっきクラスのみんなを殺しちゃったから、あと一日はまともな命令を下すことはできないよ。」

「これで全部か?」

 シンは炎の紋章を見つめながら、言った。

「うん。全部だよ。」

「姿を現せ!!」

 シンは草むらに向かって叫んだ。しかし、声の主は現れず、笑い声だけが響いていた。

「だから、僕はそこに存在しないって言ったでしょ?僕の姿を見ることは不可能なんだよ。一ノ瀬シンくん。」

「お、お前は何者だ!?俺はなぜ奇能力者になった!?お前は俺の味方なのか?なぜお前は俺を知っている!!!」

 シンが一気に喚くも、声の主は冷静に言った。

「僕はうーん…通りすがりの旅人とでも名乗っておこうか。君の味方かはこれから君がどのように世界の因果を捻じ曲げるのかによるかな。あと、君が奇能力者になったのはね。ただのだよ。お前は特別なんかじゃねぇよ。自惚れんな。甘ったれたガキが。」

 声の主、改め通りすがりの旅人はそう言うと口を閉じた。

「お、おい!!」

 シンが何度そう問いかけても彼は黙ったままだ。仕方なく、シンはさっきまで進んでいた方向へと歩き始めた。

「でも、あいつが言っていたことが嘘かもしれないよな。それより、俺これからどうなっちまうんだろ…。」

 シンがぶつぶつと呟きながら歩いていると、ある電気街に差し掛かった。大きく映し出されたモニターでは臨時ニュースが流れており、シンはそれが目に入った。

「〇〇高校、大虐殺事件の容疑者、一ノ瀬シンは依然として見つかっておりません。殺されていた生徒の状態、様子から見て特警は彼が奇能力者と踏んでおります。」

 それを聞くと、シンは周りの目を気にして、足早に歩き出した。

「くそ…。そこまでバレてんのかよ…。」

 シンは舌打ちをすると、さらに足を早める。しかし、ニュースはなおも映し出される。

「危険度が高いと見て、特警は朱黄泉団に依頼をしました。朱黄泉団は明日にでも動くとのことです。」

 朱黄泉団はニュースに興味がなく、見たことがないシンでも知っている世界で一番強いとされている奇能力者の集まりだ。メンバーの名前も素性も人数も分からないが、団の名前だけは世界中を轟かせている。

「うわ、やっべぇ…。」

 そう口先では言いながらも、シンの頭にはある考えが浮かんでいた。もし、朱黄泉団とやらを自分が倒せば、世界で最強なのは自分だと言うことだ。

「俺は、この力で世界を征服できるかもしれない…俺が神になる日も近い。」

 シンは含み笑いをしながら、走って電気街を抜けた。その様子を遠くから見つめている人がいた。

「ふふふ…一ノ瀬シン。本当に面白いやつだな。僕が情報提供をしたおかげで彼はもっと能力を使いこなせるようになるだろう。そしたらこの世界も大きく変わるだろう…面白いものを見せてくれよ?」

 はそう呟くと、消えた。

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