第31話 図書ペンギン司書
あれから、「ヴァンくんが、なんで!?」と真央が叫んだり、周囲に冷やかされたりと色々あったが、ペン太の話を早く聞きたかったユイは、大急ぎで図書室をあとにした。
二人は帰り道途中の公園に寄った。
うるさいほど鳴いていたセミが、足音に反応して声を消した。
背の低いすべり台と鉄棒しかない小さな公園。木漏れ日が落ちるこじんまりしたベンチに腰かけ、ユイがうずうずした顔で聞いた。
「で、どうなったの?」
「どうもこうもないさ。全部、図書ペンギン司書協会の仕業だったんだ」
「仕組まれたってこと?」
「うん。最後の試験は『物語に入ってお話を変える経験をし、その後どうなるか体験しなさい』だったんだって。なにが『図書ペンギンにしかできない冒険をしなさい』だよ。それでわかるわけないと思わないかい?」
ペン太があきれた顔で続ける。
「ぼくが全然気づかないから、とうとう四つ目のバッジをエサにして、物語を変えざるをえない状況を作り上げたんだと。グランドキャニオンで、物語側から注目されることがあるって教えて、ピロスの世界で自分から変えさせたんだってさ。ユイと知り合うところまで計算づくだったんだと」
ユイが目を丸くする。
ペン太の話が本当なら、まるで手のひらで転がしていたような存在がいたということだ。
「それを仕組んだのが司書協会?」
「そう。まあ……ぼくのおばあちゃんだよ」
「おばあちゃん?」
ペン太が嫌な顔をして言う。
「図書ペンギン司書協会会長ペン=エヴァンジルがぼくのおばあちゃんなんだよ」
ペン太が重いため息をついた。
「グランドキャニオンの本が、おばあちゃんが三十分で書き上げた本だって聞いて、ひっくり返ったよ。変わってしまったピロスの物語も、図書協会が復元するから大丈夫なんだって。完全に物語に取り込まれたと思って絶望してたら、おばあちゃんが杖をついて現れるんだもん。夢かと思ったよ」
「そ、そうなんだ……」
「ラシンバンは最初に事情を聞かされてたみたいだし、おばあちゃんが最初に言った言葉が特にひどいんだぜ」
「どんなこと?」
ペン太がむっつりした顔で腕組みをした。
「合格なら、普通は『おめでとう』だと思うだろ? なのに、『ヴァンジェーロは優秀ですが素直すぎて柔軟性に欠けますね』だと……」
微妙な角度でくちばしを傾けた顔と小言っぽい言い方が、見たことのないおばあちゃんペンギンの姿を想像させた。
思わずふき出したユイを、ペン太が心外そうににらむ。
「『時間はかかりましたが、ギリギリ合格です』って言われたんだ。『ユイの手助けがなかったら、落ちてましたね』だと……」
ペン太がくやしそうにくちばしをこすり合わせた。
「ま、まあ良かったじゃない、全部終わったことだし」
ユイがペン太の平たい手を撫でた。
そして、にかっと笑って輝く金色のメダルを指さした。
「合格!」
ペン太が、会心の笑みを浮かべた。
その言葉を待っていたかのように、ベンチで立ち上がって胸を張った。
「ありがとう! 色々あったけど、これで見習いは卒業だ。今日からぼくは図書ペンギン司書だ」
「やったじゃん! 金色のバッジ、かっこいいよ」
誰もいない公園に、ユイの拍手が高らかに響く。
ペン太がますます胸を反りかえらせる。
「これもユイのおかげだ。ということで、約束を果たそう。いやあ、ほんとうれしいな」
ぱたぱたと両手をばたつかせたペン太がリュックを下ろした。
筆箱型のケースに金色のバッジを近づけ、ふたを開けた。
「すごい! ぜーんぶ金色!」
2から4の番号が書かれたバッジは同じ色だった。
ペン太が2のバッジを取りだし、両手にのせて恭しく差し出した。
「どうぞ、お受け取りくださいませ」
「そんなに改まらなくても……」
「いいや、おばあちゃんはひどいけど、言ったことは間違ってない。ユイがあの場面でピロスに立ち向かってくれなかったら、ぼくはあきらめてた」
ペン太が瞳に信頼を込めて言う。
「これからも、優秀な隊員の力を貸してほしい」
ペン太はゆっくり頭を下げた。
ユイが両手でバッジを受け取った。
「そういうことなら」
「だが、隊長は譲らないぞ!」
ペン太が、片手をあげて真っ青な空に宣言した。
たくさんのセミの声がファンファーレを鳴らすように響いた。
(Fin)
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最後までお付き合いいただきありがとうございました。
初めて児童向けに挑んだこともあり、執筆中は戸惑いの連続でした。
反省点の多い作品ですが、ペン太とユイの世界を少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
ペンギン・イン・ザ・ライブラリー 深田くれと @fukadaKU
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