残り3日
「なあ、花蓮なんで休んでいるか知ってるか?」
「てっきりアゲハなら知ってると思いましたけど」
あの旅行から日が明けて翌日。いつものように学校に来たのだが……何故か花蓮が学校を休んでいた。
生徒会長なので姫乃なら理由を知っているかもと聞いてみたが、当ては外れた。
「僕はアゲハと喧嘩でもしたのかなって」
らしくない落ち込んだ表情の健人が呟いた。喧嘩は……していない、と思う。あの後はタクシーで運んで、ただ家に帰っただけなので別に問題は起きていない。単純に土曜日みたいな寝坊ならいいのだが。
その後、担任に聞いても理由は分からないままだった。
刻々と嫌な時間が過ぎ、授業中もひたすら考えていたが思い当たることが浮かばない。教室の中は別に寒くもないのに、嫌なことばかり頭に浮かび額や手に汗が滲む。
花蓮の猶予まで残り3日……まだ時間はあると聞いているが、まだ俺の知らない事実
を花蓮は隠しているのか?
「だめだ、じっと考えても何も起きないし始まらねぇ」
昼休みに差し掛かった直後、俺は颯爽と教室を出て下駄箱まで向かう。
「ちょ、どこに行くんですか!?」
「悪い、体調不良で早退ってことにしといてくれ!!」
目を点にした姫乃に後を任せ、俺は花蓮の家へ走った。
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――ピンポーン。
ほぼノンストップで走り続けて花蓮の家に着いた。肺と脳が酸素を求めて心臓が苦しいが気にしている場合ではない。
辺りは平日の昼間ということもあり閑散としていた。今この瞬間だけは世界に一人だけと、変に錯覚してしまうくらいの虚しさが胸を締め付ける。でもこれはもっと別の理由もあるだろう。
「花蓮、いるなら返事をしてくれ!!」
いくらインターホンを押しても物音一つすらしないので大声で叫んでみる。……しかしただ周囲の住宅街に響いただけで求めている返事はなかった。
「家には居ないのか……」
だとしたら一体どこへ向かったというのか。他に思い当たるふちなんてないぞ。
ここにいても仕方ないので花蓮の家を諦めて去ろうとした――その瞬間。
「……帰って」
今までにないくらい冷たい声がインターホンのマイク越しから聞こえた。
「なんだ、いるじゃないか。ほら学校に行く――」
「学校には行かないわ。貴方にも会わないし用もない。だから早く帰って」
ただただ静かに、花蓮は登校拒否の意思を示す言葉を告げる。
今の花蓮は明らかに不自然だった。これまで多くの嫌な出来事に巻き込まれても、喧嘩しても、学校が面倒くさいと思った日でも、決して学校に行かないという選択肢は取らなかった。なのに今日は頑なに学校へ行かないと言う。
昨日まであんなに楽しそうで幸せそうだった花蓮はどこに行ってしまったのか。
「なあ花蓮。なら学校に行かなくてもいいから、一度だけでも会わないか」
「さっきから言ってるでしょ!! 早く帰って!!!」
ここまで取り乱して怒りを表す花蓮は見たことがなかった。でも、これでようやく、花蓮が俺と会わない理由がはっきりした。
「それ、本音なんだな」
「そうよ、だからもう」
「ならなんで、そんなに泣いているのか聞いてもいいか」
その怒りの裏に、どうしようもなくて苦しんでいる花蓮が扉越しに見えた気がした。
「――え、私、泣いて、なんで」
「わかってるよ、理由くらい。……外が怖いんだな」
その言葉をキッカケに、花蓮の何かが吹っ切れた。
「うぅ……怖い……怖いよぉぉぉぉアゲハあぁぁぁぁ!」
普通に考えたら分かることだった。まだ大人にもなってない少女なのに、何度も何度も死ぬ体験をするのだ。その解決方法は分からず、今回は全力で回避しようと頑張っているが、確実に回避できるという確信はどこにもない。その約束の日が3日後だというのに、怖くないわけがなかった。
なぜこんな簡単なことがすぐに理解できなかったのだろうか。自分の頭の悪さに腹が立つ。
「大丈夫だ花蓮、大丈夫。俺が絶対に死なせない」
絶対と言える証拠や根拠がどこにもなかろうと、俺は敢えて絶対に守ってみせると誓う。今なら誰にだって負ける気はしないし、何にだって勝てる気しかしない。もう二度と、花蓮を泣かせたくない。
「今日はもう学校休んで、明日は気が向いたら学校に来てほしい。なるべく側にいるし、悲しい思いはさせないから。もしそれでも怖いなら電話してくれ、すぐに駆けつける」
「うん……うん。ありがとう、アゲハ、もう大丈夫だから」
今日のところはもう帰ることにした。ここで無理やり家に上がっても逆に迷惑だろうと思ったからだ。
そうして学校に戻った俺は、健人と姫乃にとある相談をした。快く引き受けてくれたことに感謝しつつ、さらなる許可を取るため次の人に電話をかけた。
「もしもし、景兄。ちょっと相談があるんだけど――」
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