残り48日


「では、始め!!」


 一斉に皆がプリントをひっくり返す。

 この一瞬だけクラスの全員が謎のシンクロを生み出すのも無理はない。なぜなら今日はテスト当日で、そのテストの時間がたった今始まったのだ。当然、教室の雰囲気もピリピリしている。俺も今回は真剣だ。なぜなら花蓮と勝負しているからで、いつもの倍は勉強しているので俄然負けられない。


「とはいえ、少し前までバカだった不良が、それなりに勉強したから勝てるような甘い世界ではない。だが、みんな勉強に付き合ってくれたし、花蓮にも助けてもらった。それなりにいい勝負にはしたい」


 頭を今までにないくらい全力で回転させながら問題を解いていく。


「ここは……一昨日に復習した場所だな。大丈夫」


 スラスラとペンが進む作家の気分になって問題を解いていく。


「これは……分からん。その場合は一旦、諦めてスキップ。戦略的撤退というやつであって負けではない」


 これは姫乃から教わった。「十秒考えて道筋が見えない問題は無視していいです。後から時間があれば取りかかればいい優先順位ですから」など言っていたことが頭に過ぎった。


「また花蓮に教わったことだ。運が良いな、日頃の行いがいいからと思っておく」


 困難が続くと思われたが、徐々に問題が進んでいく。……しかし、半分を超えたあたりで違和感を覚え始める。


「……どこも花蓮と勉強したとこだ」


 居残りで勉強していた一昨日、なぜか花蓮が「ここの問題やるわよ。私が分からない部分がある」いうので、それに付き合っていた。別に問題範囲だし、どこもたいして理解していなかったので花蓮に従っていた。……その練習問題が気味悪いくらいテストに多く出ている。さらに――


「夏休みの課題を中心に出題されている。花蓮のいう通りじゃねぇか」


 俺が予想するよりも、普段から成績が良い花蓮の予想を信じたほうが無難だと思っていたので、素直に信じて課題の復習を中心に勉強していた。いつもの夏だったら、この半分も解けていないし、時間を持て余して後半は寝る。あいつ……未来でも読む力があるのか。


「花蓮の言う通りだ、解ける、解けるぞおぉぉ!!」


「うるさいぞ空門!! 失格にされたいのか!!!」


 どこからか「……バカ。後で覚えておきなさいよ」っと寒気がする声が聞こえたが何も聞かなかったことにする。


 そんなこんなで、次々とテストを解いていった。全て時間をフルに費やして回答を考えていたので、時間が経つのはあっという間だったが、普段から使い慣れない頭を酷使したので疲れも今までにないくらい訪れた。

 成績が普段から良い人って、こんな大変なことを毎日繰り返しているのか。別に勉強している奴を真面目だと馬鹿にしていたわけじゃないが、改めて尊敬する機会となった。……そこに花蓮も含まれていることは言わずもがな、だ。


「――以上、テスト終了だ。皆んなよく頑張った。気をつけて下校するように」


 ようやく終わりを迎えることができた……今日はぐっすり眠れそうだ。

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