残り56日


「ほんと、久しぶりに映画館なんて来たわ」


 暇を持て余した俺たちは映画館に訪れていた。最近、やけに世間で人気の映画があるため、劇場内は大賑わいだ。俺も花蓮もどちらかといえば流行に遅れているタイプなので、なんで人気なのかは知らない。よって何の映画が今は面白いのか無知の二人のため、今回は助っ人に来てもらった。


「ありがとうございます。私の我儘に付き合わせてしまって」


 ということで、今日は珍しく姫乃が付いてきた。彼女は健人と同様に色んな人と付き合いがあるので、世間の流行には敏感だ。

 正直、誘う気はなかったけれど「夏休み、私と一回も遊ばないなんてこと一度もなかったのに……姫乃は寂しいです。こうなったら学校で気が晴れるまで付きまとうしかないようですね」と景兄伝いで連絡がきた(連絡先はブロックしているため)。

 これはさすがに面倒ということで誘ってあげたのだ。しかも。いつのまにか花蓮と仲良くなっていたらしいので、花蓮も誘い、今日は三人で遊ぶことになった。


「いいのか、俺が居て。むしろ邪魔だろ」


 なんというか、女子二人に男一人という構図が気が落ち着かない。さっきから二人で女子トークをキャッキャして楽しんでいるので、自分が場違いな気がしてならないのだ。


「はぁ……これだから鈍感バカは困ります」


「姫乃も大変ね。こんなバカと恋人なんて」


 二人揃って俺を罵倒する。……なんだろう、この二人から混ぜる危険の香りがする。取り返しがつかない事件を起こすとか、そういうのじゃなくて、俺にとって都合が悪い展開になるような。


「だから恋人じゃないですよ……残念ながら。どちらかというと……保護者?」


「あら、それはそれで面白いわね。アゲハの世話をする母親ってとこかしら」


 ダメだ、もうコイツらはどうにもならない。


「聞いてください、花蓮さん。アゲハはね、それはそれは昔は荒れくれたヤンチャボーイでして、景さんが来るまでは私が世話をしていたんですよ。ちょうどアゲハの親と私の親が仲が良かったので」


 それから姫乃は過去の話を長々と語った。正直、恥ずかしい気持ちはあるが、変に誤魔化しても後がめんどさいので止めない。めちゃくちゃ花蓮が興味深く聞いていて疑問しか湧かなかったが。そんなに面白い話でもないだろうに。

 そんな中、途中で一つ花蓮が姫乃に質問をなげかけた。


「ねぇ、なんでアゲハってグレたの? 話を聞いていると、途中から反抗期が来たみたいになっているけれど」


「なぜって、花蓮さんも知っているでしょう? アゲハの両親――」


「姫乃!!」


 しかし、そこまで深掘りされるのは気にくわない。まだその過去については花蓮に話してないのだ。そのことは自分から伝えたいと思っていたので、口を開きかけた姫乃を止める。


「……もしかして花蓮さんに話してないのです?」


「いいだろ、別に。わざわざ話すことでもねぇ」


 俺たち二人だけしか知らない内容に、花蓮はキョトンとしていた。


「べ、別にいいわ、無理に話さなくて。私だって隠したい過去の一つや二つくらいあるから」


「……すまん」


 実を言うと、別に話しても構わない……でも良いタイミングがない。それに、もしかしたら花蓮に軽蔑されることを恐れているのかもしれない。ともかく、少なくともその機会は今じゃないと思った。


「さ、さぁ、そろそろ映画の時間です! 楽しみましょう!」


 空気が悪くなる前に姫乃が切り出した。ナイスとしか言いようがない。


 それから三人で映画を鑑賞した。よくある恋愛モノで、二人で多くの困難を乗り越えたけれど、最後にヒロインが病で死んでしまうという悲しい結末だった。



 ――なぜか、胸の奥がズキっと痛んだ。俺は何かを忘れているような、そんな気がして。



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