残り61日


「なあ、景兄。天気って人は読めるのか?」


「そりゃそうだろ。じゃないと天気予報してる奴はただの詐欺師だぞ」


「そっか。ごめん、言い方を間違えた」


 あの豪雨から翌日。今もなお雨は振り続けているが、昨日ほどではない。しかし急にひどくなる可能性もあるし、二次災害の恐れもあることから今日は大人しく家に籠もって過ごすことにした。

 しかもちょうど景兄の仕事が休みだった。そこで昨日の花蓮の言動を思い出し、少し不思議に思ったので物知りの景兄に聞いてみることにしたのだ。


「別にデータも見ないで、ましてや外の空気を感じず空の雲もろくに見てないのに数時間後の天気を読むことって可能?」


 口に加えたタバコをふかし、しばらく虚空を長めながら思考した後、きっぱりと景兄は首をふった。


「いや、不可能に近い。たまたま言い当てたか……預言者的な存在じゃないと。それがどうしたんだ?」


「何となく聞いてみただけ。ありがとう」


 あいつが……預言者?

 それはありえない。アニメの世界じゃあるまいし。たぶん、女の勘ってやつが働いたのだろう。もし仮に預言者だとして、だったらなぜ三島美香らの問題を回避しなかったのか。他にも宝くじや競馬なども当て放題であり、それこそ学校に通うことなくそれで食っていける。そんな素振りは無いので、この線はあり得ないだろう。


「預言者ねえ……そんな人、本当にいるのかよ」


「いなくもないぞ。占い師の中のほんの一握りは本物だし、これで経営を成功している実業家だっている。ただ全て視えるわけじゃなく、ときどき少し先が分かる程度だがな」


 ファンタジーの世界の存在だと思って口にしたのに、景兄から肯定したことに驚く。


「おい、なにびっくりしてんだ」


「いや、だって、そんな特殊能力を持つ人がいるわけ――」


「あのな、自分のその『眼』を見てから言え。現に俺の目の前にいるじゃねえか」


 呆れたような物言いに、俺は言葉が喉に詰まる。


「世界には、意外といるんだよ、特殊な力を持っている人が。そんな世界の理から外れている能力、誰にも打ち明けられないし、誰も信じてくれないから、みんな内に隠して生きている。俺はそんな人を旅で何人も見てきた。しかし決まって、そんな奴らの最後は……いや、なんでもない」


 そんなのあり得ないと言いたいが、自分がその対象の人物なので何も言えなかった。それに、景兄は嘘をついていないという真実は、自分が一番理解できたからだ。


「はあ、景兄、あんた本当に何者なんだよ」


「ごくごく普通の中年男性ですが」


 この話は終わりだ、と言わんばかりにリビングから立ち去り姿を消した。 

 

 ともかく、花蓮のお陰で安全に家に帰れたからお礼はしとかないとな。もし仮にあのままカフェに残っていたら二人して嵐の被害を受けたかもしれない。……メールでもしておこう。ついでに次の予定でも話そうか。


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