残り65日


「あー、景兄。あの焼肉のお店行ったけどやっぱり旨かったわ。料金とか安くしてもらったから改めてお礼いっといてくれ」


 花蓮と遊んだ日から翌日。あの日は焼肉でひたすら肉焼き係を担当させられた後、適当にショッピングして解散した。俺はそれなりに楽しかったが……たぶんアイツも楽しんでいたはずだ。今度は俺からでも誘ってみるか。


「そりゃよかった。健人君と行ったのか?」


「いや、別の人」


 どうせ花蓮のことを伝えたら変な誤解を生むので、あえて言わないことにした。特に女性っていうことは絶対にバレないようにしたい。


「やっぱ彼女じゃねえか」


「だから違うって。普通の友達だよあの女は」


「俺は彼女って言葉しか言ってないけどね」


「……図ったな」


 ニヤニヤしながら景兄は俺を眺める。世界中の人と仲良くなるだけあって人の扱いが上手い。ムカつく。


「まあ、今度はいい感じのカフェでも教えてやるよ」


「いーや、大丈夫。健人に教えてもらうから」


「俺の知り合いで安くできるしサービスも振る舞うと思うんだけどな、残念だ」


「景お兄様。ぜひ紹介してください」


 高校生の財布事情は厳しいのだ。少しでも軽く済むならありがたい……景兄がお小遣いを上げてくれれば済む話なんだけど。まあ、あいつも喜んでくれるだろう。


「それにしてもアゲハと仲良くしてくれる女子が姫乃ちゃん以外にもいたなんて驚いた」


「確かに俺も驚いたよ。なんでだろうな」


 なぜかアイツとは、話が合う。というか会話のテンポが合うのだ。


「また誘ってみるか」


 今年の夏は、例年の夏より騒がしくなる予感がして、その未来にどこかで楽しみにしている自分がいた。

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