残り68日
「アゲハー、今日の洗濯当番はお前だろー?」
相変わらず寝そべってテレビを見ている景兄から気だるそうに言われた。この人、毎日が夏休みなのかと疑うくらいにダラけてんな。
「景兄の当番の日って存在するのかよ。いつも俺じゃん」
「あるんだよ。こっちだって忙しいんだ……うお、この姉さん可愛いな、どっかのモデルか――」
「はぁ……わかったよ、仰せのままに」
夏休み初日。花蓮に宣言した通りダラダラして過ごすつもりが、たまたま景兄の仕事休みと被ってしまい、まるでお姫様を世話する執事の用にこき使われていた。
仕事が休みと言っても、逆に仕事の日に何をしているかは知らないが。
でもどうやら、俺に会う前は世界を飛び立っていたらしい。「俺という器は日本に収まらない」とか言って日本を出たそうで。しかしその言葉が真実だったようで、持ち前の才能を発揮し各地で事業を成功させていった。そんな成功があるので、俺を養えるくらいの金はあるということだ。
「それが終わったら、久々に護衛術を教えてやるよ」
「言ったな景兄。今日こそ負かしてやるからな」
俺がなぜ健人の護衛をできるくらい腕に自信があるのかというと、こうやって景兄に色んな護衛術のスキルを積ませてもらってるからだ。彼が世界に出てまず学んだことは、自分の身を自分で守ることで、その術を学んでいる。
誤解されやすいが、俺は自分から相手に手を出すことはしない。あくまでも自分の身を守る術であり、あるいはいつか出来る大切な人を守るためだ。そうじゃなきゃ、人に暴力を振るうのは俺のクソ親父と同じに――
――ピロン。
「スマホの着信だ……誰から」
だいたいは健人が姫乃だが、健人は夏休みなんて部活友達か女とばっか遊んでいるし、姫乃はあまりに連絡が多すぎてブロックした。となると可能性があるのは――。
「まさかの花蓮か。えーと……
『どうせ暇して退屈そうだから付き合ってあげる。明後日の8月10日、正午、博田駅集合。いいわね』」
その不器用なメールに、思わず吹き出してしまった。おそらく、あっちも暇で退屈にしているのだろう。あの時は予定しか詰まっていないと言っていたが、そんなわけないと俺は思っていた。だって教室でいつも一人で、まともに話しているのが学校で俺しかいない奴がどうやって夏休みの予定を埋めたのか謎だったからだ。まあ本当に個人的な予定があったかもしれないが……俺の直感は正しかった。
「なに一人でニヤっとしてんだよ、気持ち悪いな。まさか女か?」
「うるせえ、ほっとけ」
さて、断る理由もないし、了承のメールでも送ろうか。そもそも断る権利すらないメールなのも笑ってしまうが、それもアイツらしいなと思った。
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