残り69日
「ごめん、とは一応言っておくわ。でも勘違いさせたアゲハが悪いんだから。まったく、まさか生徒会長様があんな冗談を言う天然っ子だなんて想像もしなかったわ」
「冗談で言っているならいいんだが、あれは真顔で本気で言っているから困るんだよ」
「それマジで危ない奴じゃないの」
あのビンタ事件から翌日。健人から「ついに我慢できず手を出したのかと思ったよ」と勘違いされてしまったこと以外、特に問題は起きず、花蓮とは一件落着した。
そもそもこの件は、花蓮と話す時間が屋上で話す以外にないことが問題だった。やはり連絡先でも交換しておくべきだな。
「そうだ、スマホ、貸してくれ」
「え、は、なんで?」
そんなに警戒して動揺されても困るんだが。こうでもしないと教えてくれなさそうだし。
「私のスマホで何する気? もしかして、何か悪巧みでもしようとか思ってないでしょうね?」
「そんなことしねーよ。単純に連絡先を交換したかっただけだ」
道端の石ころを見るような目で睨みつけてきたので慌てて誤解をとく。
「そ、それなら初めからそう言いなさいよ! 貴方って、変に紛らわしいとこあるからハッキリ言ってほしいわ」
「いや、どちらかと言えば直ぐに早とちりする花蓮が悪いと思うけれど……」
また喧嘩になりそうなので、これ以上は言うのを辞めることにした。
「もう明日から夏休みでここに来ることは無いんだが……また前回みたいに急用ができて連絡できないのは避けたい」
本日は8月7日金曜日。実は今日まで夏期講習という名の地獄を過ごしていた。進学したい奴だけの特別授業で、俺は進学するつもりもないので行く気はなかった。しかし日頃の成績の悪さと景兄からの命令により大人しく通っていた。そんな苦痛の日々も今日で終わるのだ。明日からは夏休みとなり、高校2年生の俺らは比較的に自由な毎日を送れる日となる。
「あ、あー、そうね。別に夏休みに連絡取り合うとかじゃないわよね」
そう言いながらも花蓮は携帯を出して連絡先を交換した。なんて分かりやすい奴なのか。
その交換した連絡先の名前やら背景やらカスタマイズしていると、花蓮からボソっと質問がきた。
「……別に深い意味はないのだけれど、夏休み何か予定あるの?」
あくまでも俺に全く興味がないように遠くを見て聞いてきた。
「いや、特に。毎日ダラダラ過ごそうかなって」
「ふーん、やっぱ残念な人ね」
べつに嘘をつく必要もないから正直な予定を告げた。……いいだろ、何も無くても。長期休暇にダラダラこそ最高の過ごし方ってもんよ。
「そういう花蓮は何かあんのかよ」
「あ、あるわよ! こっちは貴方と違って毎日忙しい日々を過ごすわ」
なぜか花蓮の顔は、どこか嬉しそうだった。
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