残り71日
「今日も来ないか。ほんとにこれから来る気がないのかアイツ」
あの謎すぎる別れから翌日、宣言通りに花蓮は屋上に現れることはなかった。その翌日の今日も来る気配がまったくない。教室では元々話す間柄ではなかったが、なお一層避けられている気がする。
「こんなことなら、連絡先でも聞いとけば良かった」
もう来ないなら来ないでいいのだが、このモヤモヤだけは解決したい。花蓮は一人で納得したかもしれないが、俺は何も分からないのだ。
――すると、誰かが屋上に上がってくる音がした。あいつ、ようやくここに来る気になったか。
「おい花蓮。このまえの――」
「はあ、何ですかこの既視感。お求めの人物じゃなくてごめんなさいね、アゲハ」
そこには、花蓮や健人よりもよく見た顔見知りがいた。
「……なんで来たんだ?」
「まあ、そんな寂しいこと言わないでください。私は寂しいんですよ、アゲハが構ってくれなくなって」
「別に元から学校では話すことはないだろ。お前と俺じゃ立場が違いすぎる」
確かに会うのは久しぶりだった。俺は暇だが、姫乃は常に何かしらの用事に追われている存在なので会う機会が無い。しかし本当に稀に屋上に来ることがあるのだ。
生徒会長様が校則違反の場所に来ること事態がおかしいし、なんなら俺は即刻追い出されるか、次の日から扉を施錠されて二度と屋上に行けなくなるだろう。
しかし彼女は一切そこには触れてこない。なんなら俺みたいな不登校のはぐれ者に優しい校則まで作ってくれた。
そんな若干の感謝の気持ちを感じたのか、姫乃は俺に抱きついて甘い声を出す。
「せっかく愛しの彼女が会いに来たっていうのに、つれないですわ。」
涙目で崩れ落ちる姫乃を横目に、俺は冷静に反論した。
「いや、いつ彼女になったんだよ」
すると姫乃はどこか遠くを見ながら呟く。
「もう、付き合って5年になるかしら――」
「ならねえよ、変なこと言うな」
姫乃との関係は……そうだな、幼馴染みといったら良いだろうか。俺の両親がまだ生きていた頃から知り合いだ。景兄と知り合って家に住み込むまでは何かと世話をかけてきたので感謝はしているが、恋人になったつもりは決してない。というか好きは好きでもラブではない。
その時――俺の中で謎めいていた複数のピースがガチっと綺麗に組み合わさった。
「お前……もしかして花蓮に変なこと言ってないよな?」
「んー、いえ、なにも。ただ……」
「……ただ?」
俺はここで、ものすごい嫌な予感がした。
「先週ここで会った髪の長い女の子には『アゲハの恋人』って事実を言っただけですわ」
その高校生にしては目立つ胸を張りながらドヤ顔で答える姫乃に、もはや呆れて声も出なかった。
そして、長い長い溜息を吐いて呟く。
「原因、それじゃねえか……」
それは花蓮が俺に気を遣って屋上に来ないわけだ。なんなら彼女がいるのにいつも二人で飯を食ってることもおかしいと怒っていたに違いない。結果としては最悪だが、頭のモヤはさっぱり無くなった。
この騒動の中心となる本人は頭にハテナマークを思い浮かべながら俺を見つめているが。
――遠くから、どこか馬鹿にされたようなカラスの鳴き声が響いてきた。
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