残り83日
「……なんでこんなこと」
「ムカつくんだよねぇ。あんたみたいな根暗女がアゲハとつるんでるの。あいつは孤高の狼が格好いいの」
「アタシたちも怖くて近づけないのに。てか、お前のこと邪魔に感じてるだろうから、代わりに私達が、ね」
今は夕日が地に差し掛かる放課後。俺はある部屋のドア前で息を潜めていた。
そこは普段だと誰も寄り付かない空き空き教室。その中で例の三島美香ら女達が柏木花蓮を囲っていた。……正直、予想通りだ。あれで簡単に諦める奴らじゃないのは分かっていたし、こうなる展開も読めていた。だからこそ、今日は――
「別に私はアイツと仲良くもないし友達でもない」
「ふーん、じゃあなんで一緒に昼ごはんを食べていたのかなぁ。今日見ちゃったんだよねぇ」
「そ、それは……たまたまよ」
確かに今日も昼飯は屋上で食べた。しかしそれは約束していたわけでもないし、一緒に行ったわけでもない。そこに二人しかいなかっただけで、教室で皆と食べるのと何ら変わりのない時間だ。でもまあ、他の人からしたら仲良く二人きりで会っていると思われても仕方ないだろう。ったの
「あっそう。ならもう二度と階段を登れないようにしてあげる」
何を言っても柏木花蓮が認めないと悟ったのか、もう会話することはやめてただの鬱憤晴らしによる暴力を振るうことに切り替えようとしていた。……そろそろ頃合いか。
「あーあ、素直に謝れば許してやったのに」
「嘘でしょ。どうせ土下座させて顔でも踏むんだわ」
三島美香はニヤっと目を細めて笑う。
「あら、分かってるじゃない。理解が早くてお利口さんだね」
「バカの考えることなんてすぐに分かるわ。単純すぎて小学生以下の思考回路しか持ち合わせてないでしょうから」
「――っ。もう頭にきた、しね」
――バンッ!!!
「奇遇だな、俺もそう思ってたんだ」
これ以上は危ないと察した俺はドアを壊す勢いで部屋の中に入った。
「アゲハ!? なんでここに――」
「なんで? 普段からお前らがこの部屋を使ってることくらい知ってるさ」
本当は知らなかったが、協力人物のおかげでコイツの行動パターンは把握していた。
すると鋭い舌打ちが聞こえ、苦悶の顔に歪んだ三島美香が悪態をつく。
「なんかアゲハに関係あんの。別にこの女のことなんかどうでもいいでしょ」
この状況になってもまだ去ろうともせずに言い訳を述べる。
その言葉に反応して柏木花蓮も言葉を吐いた。
「そうよ、この前言ったはずよ。あんたには関係ないって。だからさっさと帰って」
「だってよ、アゲハ。あんたは必要ないみたい」
……素直じゃない奴だな、まったく。その言葉は嘘で、俺を巻き込まないためにわざとキツく言っていると分かっていた。人の嘘を見極めるのは諸事情があって得意なのだ。
そして俺も柏木花蓮に伝えたいことがあるので言ってやることにした。
「関係ならあるさ。そいつは――」
柏木花蓮の目を見ながら告げる。
「俺の数少ない『友達』だ。柏木花蓮が何と言おうとな。言っただろ? 『自由に生きる』ことが俺のモットーだ。だからお前が何と言おうと俺は俺のしたいことを勝手にする。友達を助けるのは当たり前のことだろう」
そうだ、俺は何だかんだコイツと一緒に過ごす昼休みが気に入っているのだ。もちろん、初めは邪魔でしょうがなかったが、今は友達と言いたいくらいには仲良くしたいと思っている。人生何が起きるか分からないもんだ。
「私と…とも……だち……」
三島美香が驚いた顔をして後ずさる。一歩、二歩と震える足を地につけてポツリと呟いた。
「アタシとは仲良くしてくれなのに」
そして顔を手で覆いながら彼女は空き部屋を出ていった。それに伴い、取り巻きも一緒に去っていった。
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