残り84日


「ねぇねぇ柏木さん。今日は何をしてくれるのかな」


「あははっ! その眼、お似合いだよ」


 ……なんだ、コイツら。

 今日もいつもどおり昼休みの食事をするために屋上の扉を開けると、見慣れないメンツ(3人)が柏木花蓮を囲っていた。

 あれは財布の件で揉めていた奴ら……三島美香とその連れだ。このまま去ってもよかったが、この先の展開が気になったのでしばらく息を潜めて様子を見ることにした。


「別に。用が無いなら帰って」


 柏木花蓮は見向きもせずに彼女らをあしらっている。こんな危機的状況にもかかわらず相変わらず肝の座ったやつだ。

 そんな彼女の態度が気に食わなかったのか、三島美香は眉をピクりと動かした後に柏木花蓮の胸ぐらをつかんで無理やり顔を自分に向かせた。


「え~、ツンデレなんだから。……両目潰してやろうか?」


 両目……ということは、やはりあの目の傷はコイツらの仕業だったわけだ。どうもおかしいと思っていたんだ。

 それにしても大胆なことをするものだ。もし柏木花蓮がこの悪行をバラしたり大人に教えようものならば、彼女ら三人は最悪は警察のお世話になりかねないのに。もう今は未成年ですらも犯罪扱いになるほどイジメってのは重い罪なのだ。……もしくは、そんなことも考えられないくらい馬鹿な集団なのかもしれない。恐らく後者が正解だろう。


「いい加減にしないと――」


「しないと何? みんなにお前の過去のこと、バラまいちゃうぞ♪」


「そ、それはダメ!!」


 三島美香が何かを柏木花蓮の耳元で囁くと、今まで冷静だった彼女が急に取り乱し始めた。アイツがあそこまで動揺するのは初めてみたが……よっぽど知られたくない何かを三島美香に握られているのだろう。


「じゃあ、ジッとしててね」


 リーダー各である三島美香が目配せすると、残りの取り巻き二人が柏木花蓮を羽交い締めにし始めた。いくら女でも一人くらいならどうにか振りほどけるだろうが、さすがに三人相手では分が悪い。格闘家ですら素人複数人の相手は避けると言われるくらい人数差ってのは驚異的な力の差になるのだ。


「なんで私にこんなこと――」

「なんでこんなことしてるんだ、おい」


 これ以上は面倒なことになりそうだったので、いくら関わり合いを持ちたくない俺でも表に出ざるを得なかった。このまま放っておけば学校内でも大騒ぎになるところだっただろう。なんなら、俺の憩いの場である屋上の場が再び調べられ封鎖されかねない。


「アゲハ!? なんでここに――」

 

 目を限界まで見開いて三島美香は俺を見る。――こいつら全員、ここが俺の昼飯ポイントってことを知らなかったのか? だとしたら本当に馬鹿な奴らだ。


「バカ、あいつと話すな」

「そうだよ、『干される』から」


 すると取り巻き二人が三島美香を制止する。……聞き慣れた言葉を残して。


「それもそうだね。アゲハに構ってあげるほど暇じゃないし。今日は帰ろっか」


 そうしてコイツらは俺に一度も目を合わせることもなく屋上から姿を消した。あの様子だと懲りずにまた屋上へ来そうだ。さて、どうしたものか……。


「おい、災難だったな」


 ついでに柏木花蓮も――何かを言いかけたが――黙って去っていった。


「はあ……しょうがない。貸しを作ると面倒だけど、アイツに頼んでみるか」


 こうして俺は、あくまでも屋上の安泰を守るため、とある作戦を実行する。

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