残り87日
「よし、帰るか」
「じゃあね~、アゲハ。また明日。ちゃんと学校に来るんだよ、僕が寂しくて死んでしまうから」
「お前はウサギじゃないんだから生きてくれ。何なら俺と違って友達くらい健人なら困るくらいいるだろ」
朝の登校も、授業間の移動も、はたまたトイレに行くときでさえ誰かといるくらいの人気者なのだから。……あれ、意外とうっとしいのかもしれない。
「真の友達は、アゲハだけって」
「はいはい、早く部活に行けよ」
やっと長い長い一日が終わった。どうして月曜の学校ってこんなに長く感じるのだろうか。朝から会社に出勤しているサラリーマンもこんな気分を味わっていそうだ。いや、学生の気分と同じにされても怒られそうだ。
「ねぇ早く帰ろぉ!」「うん、少し待って」「いまからカラオケ行こうぜ」
「あ~、部活だりぃ」「それな」
クラス内も今から放課後ということもあって賑やかになってきた。健人は相変わらず女の子に囲まれながら部室に向かっている。
柏木花蓮は……珍しく女子と仲良く――
「ねえ、柏木さん。私の財布しらない?」
「……知らないわよ」
――しているわけじゃなさそうだ。
柏木花蓮の周りを女子生徒三人が囲っている。クラスの皆が察するくらい見るからに不穏な雰囲気を醸し出していた。
真ん中の子の名前は……確か『三島美香(みしま みか)』って名前だった気がする。もしこのクラスにカースト制度が導入されていたら間違いなく女子のトップに君臨しているだろう。……正直、健人からはいい噂を聞かないやつだ。俺が女子だったら関わりたくないと思うので、柏木花蓮も出来れば避けていたい人物だろう。あ、その周りにいる取り巻き二人組の名前は覚えていない。
たぶん、仲介に入ったほうが良いのだろうが……俺には関係ない。早く帰って景兄の飯を作る仕事が待っているのだ。頑張れ、柏木花蓮。
「ちょっとカバンみせてくれる~?」
「や、やめ――」
取り巻きの一人が柏木花蓮のカバンを勝手に取り上げた後に中を粗探しして誰かの財布を取り出した。
「あ! あった!! こいつ美香の財布とってやんの!!」
どうやらそれは柏木花蓮のバックの中から見つかってはいけないものだったようだ。流れを見た感じ「柏木花蓮が三島美香の財布を盗んでた」っていう流れだろう。
恐らく、でっち上げだ。柏木花蓮と話すようになって言うて日数は浅いが、そんなつまらないことをする奴ではないと分かっているからだ。
「そんなつまらないことするわけないでしょ。そこらへんの小虫より頭空っぽなのね、ほんと。馬鹿じゃないの??」
うわー、めちゃくちゃ怒ってんなアイツ。言葉の選びが痛烈すぎる。しかしそんなに相手を刺激すると後が大変になると思うが……。
「ちょっとこっち来てもらおうかな、柏木さん」
「大丈夫、大丈夫、変なことしないって」
机の前で仁王立ちしていた柏木花蓮を取り巻きが囲って腕を引っ張り出す。
「痛っ。引っ張らないで」
やはり予想通りになったか。しかし、そこまで心配することはないだろう。いくら良い噂が立たない奴だろうと、学校内で問題になるくらいの騒ぎは起こさないはずだ。
「ちょっとムカつくから――立ち場っての分からせてあげる」
教室から出る間際、そんな会話が聞こえた気がした。
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