残り94日

 ――屋上――


「ちょっと、なんで言い返しに来ないのよ!?」


 本日は7月13日、月曜日だ。あれから週を跨ぐまでコイツとは一切関わっていなかった。なぜかって? そんなの、めんどくさいからに決まっている。自分から変な奴と関わりを持つ人の気が知れないだろ。

 これで俺は、いつもどおり退屈な学校を自由に過ごすだけの日常に戻るはずだったのだが……。なぜか柏木花蓮は、昼休みに、わざわざ、またもや立入禁止の屋上へとやってきた。


「逆になんでまた来るんだよ。俺がもう何も言わないなら会話も終わりだろ」


「そんなの、つまらないじゃない」


 不思議な顔をしながら一呼吸の間もなく彼女は即答した。まるで俺が間違っているかのように。

 ええ……まじかこいつ。こんな性格だったのか?いままでずっと猫かぶって生活していたのかよ。元々、コイツといつも話すような関係性では無かったが、それでも別人かのような素振りと態度だと感じてしまう。


「私はもう自分を隠して学校を過ごすのはやめたの。自分のしたいように、やりたいように楽しく生きようって。どうせもうすぐ死ぬんだから」


 どうやら死ぬ手前だから最後に思い残しがないように生きていくらしい。その思いを別に否定するつもりは毛頭ないが、せめて俺の関係ないところで実行してほしいものだ。


「そうかよ、ならなおさら俺と関わるのはやめとけ。面白くないから」


 本当に死ぬんだとしたら、俺とわざわざ関わるのはナンセンスだ。どうせなら健人の方が関わりがいがあるってものだろう。


「それは貴方が決めることじゃないわ。私がそうしたいからそうするの。さっき言ったじゃない」


 しばらく柏木花蓮は黙った後、腕を組んで眉を潜めながら呟く。


「あなたって……めんどくさいのね」


「お前に言われたくねえよ!!!」


 本当に何なんだコイツ。なんか恨みでも買っただろうか。

 確かに俺は見た目も生活態度もヤンキーっぽいというか不良に勘違いされても仕方ないが、中身は真っ当な聖人だという自信がある。ちょっと目つきと口調と素行が悪いだけだ。『そんなんだから友達が僕と姫乃ちゃんしかいないんだよ~』って健人の声がどこか遠くから聞こえた気がしたが本当に気のせいだろう。


「はぁ、もういいや。俺は飯を食うからお前も食ってこいよ」


「そうね、お腹へったわ」


 そう彼女は呟くと、まるでこの場所で何度もご飯を食べてきたかのように平然と隣のベンチに腰掛ける。そしていつの間にか用意されていた弁当箱を開け、丁寧に「いただきます」と言った後にご飯へ箸をつけた。


「……ここで食べるのか?」


「ええ、悪い?」


「ああ、悪い。お前は知らないかもしれないが、ここって立入禁止だぞ。それに俺の専用フロアにしているからな」


 まず間違いなく先生らに見つかれば怒られるし何かしらの罰はある。さらに言えば、いまここで許可を出してしまえば明日からもここに来て昼飯を食べにくるかもしれない。そうなってしえば俺が今まで守ってきた静寂の地が一瞬にして崩壊してしまう。それだけは何としても避けたいのだ。だからコイツには丁重に帰っていただきたいのだが……。


「そんなの知ってるわよ。それとも……先生にバラしてほしいの?」


 彼女は目を細め深い笑みを浮かべながらコチラを見つめる。この顔だけ見たら間違いなく漫画の悪役だ。それも上級クラスの。


「……はぁ。もう勝手にしろ」


 そんなこんなで今日はいつもと違う散々で騒々しい昼休みを過ごした。

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